凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
これまで散々闇の力に飲み込まれないように言われ続けてきたが、そうなってしまった人を見るのは初めてで、ルーリアは言葉を失う。
(あの様にはなりたくない)
そうは思っても、あの男は明日のルーリアの姿かもしれないのだ。
穢れ者となってしまえば、自分に良くしてくれているみんなを傷つけてしまうかもしれないと、ルーリアは恐くなる。
ルーリアは不安な気持ちを抑えるように、お守りがわりの魔法石をギュッと握りしめた。
+ + +
レイモンドが戻ってくると、ルーリアたちは行きと同じようにそれぞれ荷馬車に乗り込み、愛馬に跨ったカルロスがそれに並走する形で騎士団の詰め所を後にした。
ルーリアの表情はどことなく強張ったままで、穢れ者を目の当たりにしてショックを受けているのは明白だった。
(こういう時、どんな言葉をかけたら良いのか見当がつかない……騎士団長なら気の利いた言葉のひとつやふたつ言えそうだが)
脳裏に浮かんだエリオットの顔にカルロスは顰めっ面をし、視線をルーリアから前方へと戻した。
道ゆく人々からは相変わらず好奇の視線を向けられ、それに嫌気がさす。中央に大きな噴水がある広場に出たところで、黒い外套を纏った人物が視線の隅を掠め、すぐさまそちらを確認した。
広場の中でもカルロスから一番遠い位置にあたる花屋の手前に黒い外套を纏った人物がいた。体つきから男だと判断した後、隣接する店との間に、もうひとり似た格好の男がいることに気付く。
(……誰だ)
距離がある上、フードを深々と被っていて、なおかつ目元を仮面で隠しているため顔は良く分からない。しかし、男たちの異様にも映るその格好は、カルロスに十年前の記憶を呼び起こさせ、一気に肌が粟立っていく。今すぐ外套の男たちの元へ駆けて行きたいが、その衝動を押さえ込むように手綱をぎゅっと握り締めた。