凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜

「俺は別に。ルーリアを手元に置いといた方が得だと思っただけで」
「結婚するまでに、カルロス坊ちゃんが異性を気に掛けている姿を見たのはあの時だけです……と言っても、その後いろいろありましたからね。幼くして当主となった坊ちゃんはずっと走り続けるしかなくて、そんな余裕が無かったのは仕方ないと思います」

 ルーリアと出会ったその後に、ジークローヴ家は悲劇に見舞われた。レイモンドとエリンはたまたま外出していたため被害に遭わずに済んだが、それ以外で生き残ったのはカルロスただひとりだ。
 少しばかりしんみりとした空気になってしまったところに、炊事場からエリンが戻ってきて、「どうかしたの?」と不思議そうに問いかけた。カルロスは何でもないという風に肩を竦めてみせた後、「俺は詰め所に戻る」と呟いて、そのまま玄関へと向かっていった。


+ + +


 屋敷を出て、先ほど通りかかった広場へ愛馬を走らせる。もちろんカルロスの脳裏に浮かぶのは、黒い外套を纏った男たちの姿だ。

(……思う通りにはいかないな)

 広場に到着すると走る速度を落とし、花屋付近はもちろんのこと全体を見回すものの、それらしき姿は見つけられなかった。
 歯痒さを募らせた時、前方から「カルロス隊長!」と声を掛けられ、見回り中の騎士団員四名が近づいてきた。

「ご苦労様……怪しい動きがある。くれぐれも油断するなよ」

 カルロスから小声で告げられた言葉に、団員たちは表情を引き締めて「はい」と返事をする。
 またそこに二名の騎士団員がやって来て、「これから、先ほど穢れ者が現れた地点を調べてきます」とカルロスに報告した。
 それぞれ騎乗しているため、近くにいる幼い男の子が「かっこいい」と声を上げながら、こちらを見上げている。そんな様子に騎士団員たちは気付いてにこやかに手を振った後、それぞれがこの場を離れていく。
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