凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜

「ケントと俺、それからそこのふたりは応戦を。王妃のそばにいる三人はそのまま王妃を守りつつ、この場を離れろ」

 カルロスが迷いなく指示を飛ばすと団員たちから「はい!」と一斉に返事が上がる。

「隊長、使ってください!」

 ケントは二本あるうちの片方を剣帯ごと外してカルロスへ放り投げると、そのまま手元に残った剣を手にし、貴族に襲いかかっている黒精霊へと向かっていく。
 しっかりと受け取ったそれを、カルロスが自分の腰に装着した時、ルーリアが震える手で胸元を押さえながら、その場に崩れ落ちた。

「ルーリア!」

 すぐさまルーリアに駆け寄るものの、素早く剣を抜いて、向かってきた黒精霊に応戦する。

(闇の魔力が……あの野郎)

 ルーリアの中で大人しくしていた闇の魔力が、今にでも溢れ出さんばかりに増幅している。ルイスによる働きがけがあったのは明らかで、カルロスは目の前の黒精霊を斬り捨てると、「ルーリアしっかりしろ!」と声を掛けた。
 その時、エリオットを先頭に騎士団員たちが傾れ込んでくる。エリオットは「嫌な気配がすると思ったら」と顔を歪めた後、カルロスとルーリアに気づいて、慌てて駆け寄ってきた。

「何があったんだ。ルーリアさんは無事か?」
「怪我は負っていませんが、闇の魔術師にやられた。それと、黒精霊はルーリアに反応している。俺は彼女と共にひとまず離れます。後をよろしくお願いします」


 カルロスの言葉を受けて、エリオットはぐるりと庭園を見渡す。
 近くの黒精霊たちはルーリアに引き寄せられるようにして近づいてきていることや、黒精霊に傷を負わされて穢れ者になりかけている者を数人見つけ、神妙な面持ちとなっていく。
 そこへケントが近付いてくると、カルロスは思い出したように声を掛けて呼び寄せ、「頼みたいことがある」と前置きしてから、ルーリアの父親の状況を説明して聞かせた。それにケントは「分かりました」とすぐさま了承した。

「気をつけろよ」

 カルロスはエリオットの言葉に頷き返すと剣を鞘に納め、苦しそうなルーリアを両手で大事そうに抱え上げて、歩き出した。




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