凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
六章、ふたりで作る未来へ

 ジークローヴ邸の玄関がばたりと勢いよく開き、ルーリアを抱きかかえたカルロスと、レイモンドが慌てた様子で入ってきた。
 モップを手に持ってちょうど廊下に出てきたエリンは、その様子に気づくと同時に、大急ぎで歩み寄る。

「お帰りなさいませ……いったいどうなさったのですか?」
「結界を張ってあるから、屋敷の中ならなんとかなるかと思ったが、考えが甘いかもしれない。レイモンド、念の為、このままエリンを連れて裏から出ろ」
「わかりました。団長の元へと向かい、応援を頼みます」

 エリンはカルロスの腕の中で苦しそうにしているルーリアを見つめて問いかけるが、カルロスはそれには答えず、レイモンドに指示を飛ばす。

「エリン、説明は後です。行きますよ。そのモップは持っていてください。武器になる」

 レイモンドは戸惑うエリンを促しつつ歩き出すと、ようやくエリンも「わかったわ」と返事をして動き出す。勝手口がある炊事場の方へと進みながら、エリンがルーリアを心配そうに振り返った瞬間、前を歩いていたレイモンドの背中にぶつかる。

「あなたどうしたの? ……くっ、黒精霊!」

 行く手を塞ぐかのように目の前に現れた黒精霊に、エリンが悲鳴に近い声をあげる。しかもその一体だけでなく、空間に生まれた歪みから黒精霊が姿を現し始め、エリンとレイモンドはカルロスの元へと舞い戻る。
 玄関から外に出るべきかと考え、カルロスがそちらへと目を向ければ、玄関の前にも歪みが生じ、ぞろぞろと黒精霊が屋敷の中に侵入する。
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