凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
逃げ場所を絶たれたことにカルロスは舌打ちし、追いたてられるようにレイモンドたちと共に居間へと移動する。
黒精霊の目的はやはりルーリアのようで、転びそうになっても目を逸さない。黒精霊の一体が一気に側まで近づいてきたため、エリンは持っていたモップを振り回した。
「近づかないで!」
がむしゃらに振り回したそれが黒精霊に当たると、黒精霊の眼差しがルーリアからエリンへと定められ、鋭い鉤爪を振り上げて、エリンに飛びかかった。
「きゃああっ!」
すぐさまレイモンドが光の魔力を使って黒精霊を弾き飛ばしたが、エリンの腕は切り裂かれ、血が滲み出しているそこには黒い影がまとわりついていた。
息を荒げていたルーリアはそれを目にし、「カルロス様、降ろしてください」と話しかけた。床に足がつくと、ルーリアは苦しそうに胸を押さえながら、ふらふらとした足取りで、三人から離れて行こうとしたため、すぐさまカルロスが腕を掴んだ。
「ルーリア、どこに行く」
その問いかけにルーリアはゆるりと振り返り、カルロスとレイモンド、そしてエリンへと順番に視線を向ける。
「皆さん、逃げてください。逃げて早くエリンさんの手当を。黒精霊は私を見てる。私が目的なのだから、私が囮になれば良い。私が気持ちを保てている間に、どうか早く」
言い終えると同時に、ルーリアはその場に崩れ落ち、苦しそうに歯を食いしばった。すぐさまカルロスはルーリアに寄り添うように片膝をつく。
「こんな状況で、ルーリアをひとり残していけるか!」
強く拒否すると、ルーリアがカルロスへと顔をあげ、厳しい面持ちで覚悟を口にした。