凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
 彼は「いいえ」とアズターの問いに軽く首を振って答えた後、気にかけるように改めてルーリアへと目を向けた。彼と目が合ったがそれは一瞬の出来事で、すぐさまルーリアの視界を遮るようにアズターが目の前へと一歩踏み出してくる。おまけに「下がれ」と言わんばかりに、アズターが肩越しにルーリアに視線を向けてきた。

(私が誰かと喋ったりして、その人の記憶に残るような行動を取らせたくないのね)

 ルーリアはいつもより余裕なさげな父親を不思議に思いつつも、自分に向けられた厳しい眼差しから父の考えを読み取る。そして、ちくりと痛んだ胸を手で抑えながら顔を俯かせ、唇を噛んだ。

(彼と話したかった。でもチャンスはあったのに勇気を出せず、それを逃してしまったのは私だわ。もう諦めるしかない)

 アズターの求めに応じて、ルーリアが静かに足を後退させようとした時、背後から「どいてちょうだい」と焦りを含んだ声が聞こえてきた。
 振り返ると、男性たちをかき分けるようにしてこちらに向かってくるアメリアと、その後ろに「アメリア、待ちなさい!」と彼女を追いかけるディベルの姿があった。
 アメリアは心なしか嬉しそうにも見えるが、ディベルのひどく強張った表情から激怒される予感を覚え、思わずルーリアは身構える。


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