凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜

「逃げられた……しかも、慌てて出て行ったという感じですね」

 テーブルには飲みかけの紅茶や、読みかけの新聞が置かれてあり、炊事場には洗い物の途中で放置された皿があったのを思い返しながら、カルロスがため息混じりにそう結論づける。

「城から真っ直ぐ屋敷に戻り、みんなで慌てて屋敷を出たんだな。絶対に逃してなるものか。国境警備にすぐに伝達を」

 エリオットの指示を受け、近くにいた団員が「了解しました」とすぐに身を翻した。カルロスは開いている扉の向こうの部屋へと目を向け、ゆっくりと歩き出す。ルーリアはもちろんのこと、エリオットもつられるように共に歩き出した。
 一階の奥に位置するその部屋は家族の誰かの部屋のようで、ベッドや机、絨毯などどれも高級品であるのが見て取れた。カルロスは躊躇うことなく、棚の引き出しを開け始め、そこに大きな宝石の付いた指輪などが入っているのを確認する。

「まだ近くにいるかもしれない。ガーデンパーティーでの一悶着があったから、俺たちが来ると踏んですぐに屋敷を出てはいるが、金目のものはそのままだ。どこに逃げるにしろ金は必要だ。俺たちが引いた後、屋敷に戻ってくる可能性が高い」
「そうだな。どこかに隠れて、こっちの様子を伺っているかもしれない。どうにかして、引っ張り出せないものか」

 カルロスの考えに納得しつつ、エリオットは窓の向こうへと警戒の目を向ける。黙ってふたりの話を聞いていたルーリアだったが、思い切るように「あの」と声を発し、一歩前に出た。

「私が囮になれば、引っかかるかもしれません。それに闇の魔力をあえて発動させれば、エメラルドさんだって出てくるかもしれないし」
「危ない。反対だ!」
「……でも、やってみる価値はある」

 即座にカルロスは反対の意を示すが、エリオットは少し考えた後、ルーリアを後押しする。
 ルーリアも息を吸い込んでから、緊張気味に自分の思いをカルロスに訴えかけた。

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