凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
(こっちを見て欲しい。俺に気づいて)
そんなことを思った自分にひどく驚いても、それでもカルロスの足は止まらない。
彼女に向かって一歩踏み出すごとに、体の中で鼓動が強く響き始める。
見慣れたはずの単調な景色が、一気に色鮮やかなものへと変わっていき、力強く時が動き出す。
人の壁に阻まれると同時に、カルロスの五歩分ほど先を彼女が横切っていった。彼女の視線は王妃に向けられている。
そのままカルロスも彼女と平行するように、時折人にぶつかりながらも、横へ横へと移動していく。
(逃がさない)
心の中で幼い自分がそう叫ぶ。強い思いに背中を押されるようにして、カルロスが人の壁を抜けて彼女の後ろへと出ると、ちょうど楽師たちが演奏を奏で始めた。
それにつられるように人々が動き出し、流れにうまく乗れなかった彼女がよそ見をしていた男とぶつかった。
彼女が倒れそうになるのを目にし、カルロスは無我夢中で手を伸ばし、華奢な体を自分の元に引き寄せた。
「すっ、すみません。ありが……」
ようやく彼女と視線が繋がる。ようやく自分を見てくれた。ようやく……会えた。
あの時の女の子で間違いないと確信し、驚いていることから彼女も自分を覚えていてくれていたことを感じ取る。
「……大丈夫ですか?」
素直に嬉しくて、心がどうしようもないくらい熱くなり、発した声はわずかに震えていた。


