凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
「お母様!」
思わずルーリアが呼びかけると、ジェナもルーリアたちに気づいて、馬を引いて歩み寄って来る。
「ここまで問題なく?」
「ああ。まだ気付かれていないはずだ」
ジェナはアズターに確認すると共に手綱を手渡し、ルーリアへと体を向ける。
「ルーリア、ごめんなさいね」
目に涙を溜めてそう話しかけると、ジェナはルーリアの頭をそっと撫でた。
「お母様、私こそごめんなさい。あれはお母様のネックレスだと聞きました。ちゃんとお返しするつもりだったのに……」
ずっと気に病んでいたことをルーリアが謝罪すると、ジェナがゆっくりと首を横に振り、そのままルーリアを抱きしめた。
「……謝らないで。ルーリアは悪くないってわかっているから」
アメリアによってネックレスの件は悪者にされているはずなのに、ジェナから迷いのない温かな言葉をかけてもらえて、ルーリアの目にも涙が浮かぶ。
ジェナはルーリアを抱きしめる腕に軽く力を込めてからそっと体を離し、指先で涙を拭う。
「さ、乗ってちょうだい。待ち合わせの時間に遅れてしまうわ」
アズターは「そうだな」と呟くと、馬に跨り、ルーリアに手を差し出す。ルーリアは持っていたランタンをひとまずジェナに預けて、アズターの手を借りてその腕の間に収まるように馬の背に乗る。
「またね、ルーリア」
ランタンを受け取ると同時に、泣き顔のジェナから微笑みかけられ、ルーリアはうまく笑い返せぬままにこくりと頷き返した。
ジェナが後ろに下がると、アズターは馬の腹を蹴り、夜の闇に包まれた街の中を風を切って走り出す。