凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
「もうすぐ着く……なっ!」
アズターが呟いた直後、目の前に現れた黒い影に、馬が驚いたように前足をあげて嘶いた。
急停止したためルーリアは振り落とされそうになるも、アズターがルーリアもランタンもしっかりと支えつつ、なんとか手綱を操り、興奮している馬を制御する。
「黒精霊」
周りを見回しながら、いつの間にか自分たちが取り囲まれていたのを知り、アズターは忌々しげにその名を口にした。
黒精霊は十体近くいるが、困惑している間に近くの茂みから新たに一体這い出てきたため、足を止めていればもっと数は増えるだろうと予想できた。
「強行突破するぞ」
アズターの宣言を受け、ルーリアがランタンをぎゅっと抱き締めた時、黒精霊に足を噛みつかれ馬が再び嘶いた。
光の魔力をアズターが放ち、黒精霊は弾かれたように馬の足から離れたが、他の黒精霊たちは着実に距離を狭めてきているため、一斉に飛びかかられたらひとたまりもない。
「私、馬を降ります。お父様はすぐに逃げてください」
「何を言ってる。そんなことできるわけないだろう。目的地はもう目の前だ。だからここを切り抜けられれば、きっとなんとかなる」
「駄目です。それでは黒精霊を引き連れて行くことになります。迷惑をかけてしまう」