凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
彼は特に動揺する様子なく、セレットに「余計なことは喋るなよ」とだけ念を押し、厩舎に向かって歩き出した。ルーリアもセレットに小さく頭を下げてから、カルロスを追いかけた。
厩舎で馬を休ませてから、静かに開けられた裏の勝手口から屋敷の中へと足を踏み入れる。同居人たちもまだ就寝中のようで、しんと静まり返っている屋敷の中を進み、カルロスから「暗いから足元気をつけて」と声をかけられながら、ルーリアは階段をゆっくり登っていく。
二階の長い廊下の途中にある扉の前でカルロスは足を止め、ノックすることなく押し開け、室内に入って行った。
テーブルの上にある蝋燭や壁に備え付けられてあるランプの中の蝋燭に、カルロスは手をかざして炎を灯した。部屋の中をほのかに明るくしたところで、室内に入ってきたルーリアへと振り返る。
「ここがルーリアの部屋だ」
「……私の部屋」
ルーリアの唖然とした表情から、カルロスはわずかに肩を竦めてみせた。
「新しいものに買い換える時間が足りず、すべて古いままで悪いが、ひとまず我慢してくれ」
この部屋は十年ほど使われていない。もちろんルーリアを迎えるにあたって掃除はしっかりしてもらったが、新調したものはないため、カルロスの目にはすべて古めかしく写っている。
それはルーリアも同じであるはずで、むしろバスカイル家の令嬢であり、高価で真新しい家具や調度品に囲まれて生活していただろう彼女の目にはみすぼらしく見えているに違いないと、カルロスは考える。