凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
(魔力の乱れを感じる。一応様子を確認しておくか)
自室を出て、ルーリアがいる部屋の前まで移動すると、寝ているだろうと考えながらも軽くノックをした。やはり無反応で、カルロスは少し躊躇いはしたものの、静かに扉を開けて室内に踏み込んだ。
ルーリアはブランケットも掛けぬまま、ベッドの上に体を横たわらせて眠っている。体のすぐ近くにはランタンが置かれていて、その中で弱々しく魔法石が輝いていた。
カルロスは歩み寄り、ルーリアの様子を窺う。寝顔はあどけなく、幼い頃の面影が残っているように見え、ずっと探していた少女が目の前ですやすや眠っている光景が何だか不思議に思えてくる。
柔らかそうなはちみつ色の髪、白くて綺麗な肌、長いまつ毛、小さな唇。つい観察してしまっている自分に気づき、一瞬で苦々し気持ちになった瞬間、ルーリアの表情が苦しそうに歪んだ。
「……来ないで……こっちに、来ないで……」
彼女から感じ取った光と闇のふたつの魔力に、カルロスはぞくりと背筋を震わる。考えるよりも先にルーリアの手を掴み取ると、光の魔力の守りを固めるべく、彼女の魔力の流れに沿うように己の力を分け与えた。
+ + +
真夜中に部屋でカルロスと別れた後も、夜逃げ同然の行動と初めての環境に緊張していることと、いつも通り黒精霊の夢を見るのが恐いという気持ちがあり、しばらくルーリアの意識は冴えていた。
しかし、ふかふかのベッドの上にころんと身を横たえてしまえば眠気に抗うことは出来ず、意識が一気に夢の中へと沈んでいく。
そして恐れていたように悪夢を引き寄せ、夢の中に黒精霊が現れる。何かを訴えかけてくる黒精霊からルーリアは逃げ出そうとするが、足が思うように動かず倒れ込んだ。
大きな黒い影を纏った小さな姿が徐々に迫ってくる。恐怖で慄き、体の中で光の魔力が騒めいたその瞬間、ルーリアは手が温かさで包まれたのを感じ、と同時に黒精霊の姿がかき消されていった。