イケメン妻はお飾りの年下夫の愛に囚われる
「薬がまだ効いているようですね」

 彼の口から聞いた言葉が信じられず、アニエスは唇を戦慄かせた。

「ラファエル、あなたが…あなたがこんなことを? どうして?」

 それは彼女をこんな目に合わせたのが、彼自身だからに違いないと、確信する。

「どうして? あなたが悪いのですよ」

 笑顔から一転、彼は眼光鋭く睨みつけてきた。

「私、私が何をしたと?」

「僕を捨てようとしたではないですか」

「あなたを…捨てる? そんなこと」

 言いかけて彼女ははっとした。

「そうです。三日前、あなたは僕に離婚を切り出した」

「そ、それは…」

「新しい法律が施行され、女性でも条件を満たせば爵位を継げる。その条件に自分は当て嵌まる。だからもう夫婦でいる必要はないからと、あなたは言った」

 女性が爵位を継ぐための条件。 

 他に直系の男兄弟がいないこと。

 健康であること。 

 社会的地位のある仕事に就いていること。または就く予定があること。

 領地を運営できるだけの資質をもっていること。

 アニエスは一人っ子。健康で、騎士団では一個小隊を統率し、領地も恙無く経営できている。

 条件は十分だった。

「財産については、共同名義からいくらか僕の希望するものを、僕名義にする。お金も必要な額を用立てる。あなたは自由だ。そうあなたは言った」

 アニエスは三日前、確かに彼にそう告げた。

 それに対してラファエルはひと言「それがアニエスの望みか」と問いかけた。

 アニエスは少し躊躇った後に「ええ」と答えた。

 本当は、アニエスも彼とは離縁したくはなかった。

 彼との生活は気に入っていたし、彼が夫であることに何ら不満もない。それどころか、このままずっと続けたいと思っていた。
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