イケメン妻はお飾りの年下夫の愛に囚われる
 「あなたの体にそれがないのは、僕が痕跡を残したくないからだと、そう思っていると?」

 口を封じているので、その問いに彼女は無言で頷いた。

「それで、あなたはそれが不満だと?」

 しかし次の質問には、目を大きく見開いた。

 アニエスは薔薇の痕を僕が付けないことに、傷ついていたというのか?

 そうして欲しかったと、そう言っているのか?

「私は…妻としてあなたの求める基準に達していない。女として魅力がないのはわかって」

 そんなこと、一度も思ったことはない。
 それどころか、彼女にしか勃たないのに。
 ほしいのは、彼女だけだ。
 

「私のこと、面倒くさいと思っているんでしょ」

 そんなこと、一度も思ったことはない。

「たとえ伯爵家の財産すべてをもらったとしても、離婚だけは嫌です」

 そう言えば、彼女はなぜと尋ねてきた。


「ああ、もう。そんなの、あなたが好きだからに決まっています」

 半ばキレ気味に叫ぶと、彼女は目を大きく見開いた。


「好きです。僕か痛めつけられていたのを助けてくれた時から、あなたのことを意識していました。一目惚れです。格好良くて、誰よりも努力家でおまけにかわいい」

 彼女は「かわいい」という言葉に動揺する。
 それもまたかわいいと思う。
 つられて、またあそこが大きくなる。

「あなたは子作りを義務だと思っているから、『薔薇の痕』を付けるのは、申し訳ないと思っていました。でも、あなたが望むなら、いくらでも付けてあげますよ」

 そう言って胸元に顔を埋める。チリリとした痛みが走る。それは一度だけでなく、何度も何度も続けた。
  
 ようやく僕が頭を上げた時、アニエスはボロボロと涙を流していた。

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