イケメン妻はお飾りの年下夫の愛に囚われる

 バシッ
 ドサッ
 
 ―何か揉め事かしら?

「お前、おれたちを馬鹿にしているのか!」

「ちょっと顔がいいからといい気になって」

「下賤な生まれのくせに」

 アニエスは上官に頼まれた書類を書庫に戻すため、廊下を歩いていた。そこで何人かが寄ってたかって、誰かを取り囲んでいる現場に出くわした。

「あなたたち、そこで何をしているの」

 アニエスは、看過できずに声をかけた。

 ビクリと騎士たちが驚いて、こちらを振り返った。

「げ、アニエス・ファン・デン・ベルフ」

「やばい、部隊長だ」

 彼らはアニエスを見て青ざめる。

 名前は思い出せないが、顔は見覚えがある。確かアニエスとは少し下くらいの、別の隊の者たちだ。

 彼らの向こうには、お尻をついて座り込んでいる人物の下半身が見える。

「そう、私はアニエス・ファン・デン・ベルフよ。あなたたちは、ここで何をしているのかしら」

 聞こえてきた内容からすれば、大勢で一人に対して言いがかりをつけているように見える。
 
「やばい、逃げろ」

 彼らはアニエスの登場に慌てて、その場から逃げ去った。

「わかっているな、ラファエル。身の程を弁えろ」
  
 一人が去り際にそう言い放った。

「ラファエル?」

 アニエスは一人残された人物を見て、それが噂のラファエル・ディルクだとすぐにわかった。

 彼はぶたれらしい頬を赤くして、立ち去った騎士たちの方に厳しい視線を向けていたが、アニエスと目が合うとその表情を和らげてニコリと微笑んだ。
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