海が凪いだら迎えに来てね〜元カレ海上保安官に極秘出産が見つかるまでの軌跡〜
「─…な、ずなっ」
絞り出した声は余りに弱々しく、既に歩き出している凪砂に聞こえたかどうか怪しいくらいに小さな声だった。
それなのに…少し先で足を止めた凪砂の姿に一瞬で視界が歪む。ゆっくりと振り返った彼の表情はいつもの仏頂面ではなく、、
【⠀哀しい 】
そんな感情がまるで顔に貼り付いているみたいに、目で見て分かるほどに辛そうな表情をしていた。
「ねぇ、凪砂…私今までずっと我慢して言えなかったこと、いま全部言ってもいい?」
凪砂は少し離れた距離を縮めることなく、静かに頷いてそれを承諾した。
「本当はっ・・・ずっと怖かった。いつも凪砂を送り出す度にこれが最後になったらどうしようって、凪砂が海から帰ってこなかったらどうしようってっ…凪砂を送り出して、一人取り残された日はいつも眠れなかった」
──…怖かった
それは優香が亡くなってから、海上保安大を出ても別の職に就くつもりだった凪砂が、突然進路を"潜水士"に変えて海に籠るようになってから・・・いつか凪砂も海に消えてしまうような気がして。
ずっと、怖かった。
「嫌だった…本当はずっと。ずっと…海上保安官なんて辞めてしまえばいいのにって、会いに行く度に毎回そんな最低なこと思ってたんだよっ!凪砂、知らないでしょ?」
凪砂は私の顔をジッと見ているだけで、何も答えようとしない。
「それでもっ・・・それでも一緒に居たのは、何よりも私がっ・・・凪砂のことを、、大好きだったからっ」
後半、涙が止まらなくて聞こえたかどうか分からなかったが…今言わなければきっと後悔するだろうから、なりふり構わず叫び続けた。
「ねぇ、凪砂っ・・・私もう煩くしないからっ、騒いだり迷惑になるような事もしないっ!だからお願い・・・これからも一緒に居てっ」
頬を伝う涙を拭うことも忘れ、ただまっすぐ凪砂だけを見つめてそう言った。凪砂は困ったような表情を浮かべると、ゆっくりと私に近づいてくる。
「─…萩花、ごめん。それは…出来ない」
そんな残酷な言葉を放ったくせに、凪砂はそっと私の身体を抱きしめる。
「今までありがとう、萩花・・・もう俺のことは忘れて、自分の人生を大事にしろ。応援してる、離れてもずっとお前のこと…今度は俺が応援してるから。」
─……終わった
これはもう本当に最後だなぁっと、大して長く生きてもいないし恋愛経験なんて全くないさすがの私でも悟った。
これ以上は何を言ってもダメだ、と。