たった独りの物語~私を殺そうとしている女の子を自分の手で育ててしまいました~
「えっと……コーヒー頂いてもいい? ごめんね」
「気にしないで。こんなところに住んでいても,客をもてなすくらいは出来るわ」
むしゃむしゃとパンが消えていくのを見つめながら,私は両手で湯を沸かし,常備している砕いた豆と共にコップへ入れた。
「そういえば。お姉さんこんなところに住んでて怒られないの? ここ,王様が立ち入り禁止にしてるでしょう」
「呆れた。知ってて入ってきてたのね?」
私は淹れ終わったコーヒーを差し出して,ふぅと息を吐いた。
真っ直ぐやってきても片道40分はかかる登り道を,のこのこと刺客がやってくる時間にやって来ようとすれば,いつから外出していたのかなど想像に容易い。
「だってだめって言われ続けてたら,いつか入ってみたくなるでしょう? たまたま時間があったか,ら……って,ああ!!!」
「もう,なんなの?」
呆れを通り越して慣れてくる。
「そうだ! あのね,今日いつも一緒にいる友達の1人の誕生日なの! その準備にこっそり抜け出した帰りだったの,忘れてた……!」
「あら,それは大変ね」
「そう,大変!! まだ寒いだけで冬でもないのに,看板の下に生物とか置いたままだし,それが見つかったら森で迷子だって捜索隊が出動しちゃうかも!!!」
(それは困るわ。それを名目に一斉攻撃なんて食らったら,私はともかく家がなくなっちゃう)