お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 しっかりしなきゃ。『一緒に行く』って言ったのは、私自身なんだから。
ここまで来て、『怖くて何も出来ません』じゃ話にならないわ。

 『お荷物になる訳にはいかない』と己を奮い立たせ、兄の手を握った。

 敵のことはリエート卿に任せて、私は私のやるべきことをしよう。

 魔物の断末魔や飛び散る血痕から意識を逸らし、私は魔力譲渡に集中する。
魔力の動きに注目しながら言われた通りの手順をこなし、一先ず少量の魔力を譲渡した。
────が、成功したのかイマイチよく分からない。
体から魔力を追い出したのは確実だが……兄に分けられたか、どうかは自信なかった。
『手順は間違っていないと思うけど……』と思案する中、兄が急に笑い出す。

「多いのは知っていたが、これは……くくっ。予想以上だ」

 楽しそうに声を弾ませ、兄は私の額に自身の額をくっつけた。

「よくやった、リディア。成功だ。これからも、この調子で頼むぞ」

「はい」

 兄に頼りにされていると知り、私は頬を緩める。
少しばかり誇らしい気持ちになっていると、彼が顔を上げた。

「リエート、下がれ。ここら一帯の魔物を一掃する」
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