お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「ゲームをプレイしていた当初は、『そういう影のあるイケメンよき〜』なんて思っていたけど……私、不謹慎だったよね。実際にリエートを目の当たりにすると、そんなの微塵も思えないよ。ただただ、『みんな無事で良かったね』としか……」

 申し訳なさそうに身を縮め、ルーシーさんはポリポリと頬を掻いた。
過去の自分を恥じているのか、ちょっと気まずそうである。

「それで、まあ何が言いたいかというと……」

 そろそろと視線を上げ、ルーシーさんは控えめにこちらを見つめた。
かと思えば、居住まいを正す。
『いきなり畏まって、どうしたんだろう?』と疑問に思う私の前で、彼女は────

「リディア、ありがとう。リエートを救ってくれて。一ヲタクとして、めっちゃ感謝している」

 ────と、お礼を述べた。
『やっぱ、推しには幸せでいてほしいからさ』と主張する彼女は、明るく笑う。
リエート卿の不幸を変えられた事実に、歓喜しながら。

「い、いえ……!私はそんな大したこと……」

「はいはい、謙遜しない。むしろ胸を張りなさいよ、フラグクラッシャー」

 喜んでいいのか分からない二つ名を私につけ、ルーシーさんは目を細める。
心底楽しそうに。
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