お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「パパとママは今頃、悲しんでいるでしょうね……早く立ち直ってくれるといいけど」

 一人娘である朱理()を溺愛し、高額な治療にも入院生活の手間にも一切文句を言わなかった二人……。
『いつか、三人で海に行こうね』という約束を胸に、これまで頑張ってきたからショックを受けているに違いない。
『結局、親孝行出来なかったな……』と眉尻を下げ、私はそっと手を下ろした。
その拍子にドレッサーのデスク部分と衝突してしまい、何かが床へ落ちる。
『まあ、大変!』と慌てて腰を折り、落ちたものを拾い上げる私は一瞬固まった。

「────私の体に憑依してしまった方へ……?」

 見たことない筈の文字を読み上げ、私は手の内にある手紙をまじまじと見つめる。
『言語などの知識は体が覚えているのか?』と推察しながら、パチパチと瞬きを繰り返した。
予想だにしなかった展開を前に、私は困惑を隠し切れない。
でも、このまま放置する訳にもいかないので一先ず手紙の封を切った。
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