お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「はぁ……仕方ありませんな。こうなったら────無理やり、連れて行きましょう」

 『円満解決は諦める』と言い、学園長は視線を前に戻す。
先程までの態度は全て演技だったのか、それとも腹を決めたことで豹変したのか……もう優しそうなご老人の姿はどこにもなかった。
体の芯に響くような敵意を向けられ、私は身構える。
『やっぱり、こうなるか』と表情を強ばらせながら。

 四天王アガレスの名前を出された時点で、帰す気がないのは薄々分かっていた。
だって、もし解放する予定があるなら今後のことを考えて、与える情報は必要最低限にするでしょう?
相手の信用を得るためとはいえ、ここまで無防備に晒すことは有り得ないわ。
まあ、囮役としては願ってもない展開だけど。

 『ある意味、順調?』と頭の片隅で考えつつ、私は一先ず席を立つ。
『逃げるフリくらいはしておかないと』とジリジリ後退する中、学園長は────

「どうか、悪く思わないでください」

 ────一瞬で私の背後に回った。
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