お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 まあ、しょうがない。こうなったら、戦うしかないわ。

 『逃げる』という選択肢を早々に排除し、私は身構える。
だって、出口がどこかも分からない状況だから。

 出来れば、お兄様達の到着を待ちたいところだけど……あちらがそんな余地を与えてくれるとは、思えないし。
最悪、私一人で彼らを倒さないといけないわ。

 『誰にも頼れない』という事態に、私は少なからず不安を覚える。
だって、いつも傍には兄やリエート卿が居て……私を支えてくれていたから。
でも、囮役を買って出た時点で覚悟は出来ていた。
たとえ一人でも戦おう、と。

「学園長のお気持ちは、よく分かりました。では────」

 そこで一度言葉を切ると、私は急接近してきたアガレスを蹴り飛ばす。
再び床に激突した彼を一瞥し、『ふぅー』と息を吐き出した。
いつも、兄がやっていたように。

「────僭越ながら、わたくしリディア・ルース・グレンジャーが全力でお二人をお相手します」

 『よろしくお願いします』と言う代わりに、私は優雅にお辞儀する。
それを合図に、周囲の温度は下がり白い冷気で満たされた。
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