あなたの心が知りたい
「出来ないって、どういうことですか?」
マルグリットの問いに、レジスは表の方を振り返ってから、家の中に入り込んで扉を閉めた。
「四年前、私の任務先で熱病が流行った。一ヶ月半後、流行が収まりかけた矢先に私自身も熱病に罹り、二週間生死の境をさ迷った。その時に診てくれた医者に、発した高熱のせいで、もう子供は作れないだろうと言われた」
「え」
「だから、ライオスが亡くなった今、アルカラスを継ぐのは、君の子しかいない」
「そ、そんな…」
リオがアルカラスの唯一の後継者だと言われたことも驚きだが、彼がそんな病気に罹っていたことにも驚いた。そして密かに、彼の命が無事だったことに感謝した。もう二度と会えないと思っていた人に、こうして会えたことにも。
「よ、四年前?」
「高熱に伏せっている間に、家から手紙が届いていた。その手紙には、君が旅の役者と逢い引きしていたところを見つかり、そのまま離縁されたと書いてあった。すぐに帰りたかったが、医者の許可が下りず、私が戻ったのは君がアルカラス家からいなくなった二週間後だった。病に罹っていなければ間に合ったのに」
「う、うそ。だって…」
「嘘? 嘘とは何に対して言っている?」
マルグリットは頭が混乱し、すぐに答えることができなかった。
レジスが熱病に罹って、もう子供が作れないということもそうだが、彼女が四年前にライオスに離縁を突きつけられ、アルカラス家を追い出されたことを知ったのは、彼女がいなくなった後だったということも、彼女を驚かせた。
「ではあの手紙は?」
「手紙? 何のことだ?」
「不貞を働いた私を、アルカラス家の嫁として置いておくことは出来ない。即刻追い出すべきだと、レジスも手紙で言っていた。そう、お義母様が教えてくれたわ」
「そんな手紙、私は知らない」
レジスがそう言い、今になってマルグリットはあれが侯爵夫人の嘘だと気づいた。
「君はその手紙を、私が書いたと信じたのか」
冷静になって考えれば、レジスがあんなことを書く筈がなかった。
彼は、マルグリットが実家でどんな立場だったか知っている。アルカラス家を追い出されたら、どこにも行き場が無くなることも、わかっていたはずだ。
だが、それを今知ったところで、もうどうしようもないことだ。
マルグリットが、あの旅役者と一夜を共にした事実を無かったことにはできない。たとえレジスがいたとしても、何も変わらなかった。夫だったライオスが信じてくれなかったのだから。
「あの時の私に、あなたの手紙の真偽を疑う余裕なんてなかったわ。皆が私を責め、誰も私の声を聞いてはくれなかった。殆ど何も持たされず着の身着のまま追い出された」
あの少し前、体の異変に気づいていなければ、彼女は死を選んでいたかも知れない。
彼女の命を繋いだのは、リオの存在があったからだ。
「あなたに子供ができなくても、傍系から誰かを迎え入れれば」
「直系がいるとわかって、ライオスの子がいるのに、傍系から後継を選べというのか。あの子は両親には孫で、私には甥になる。私達にだって、あの子に会う権利がある。それをわかっているのか」
「お願い、私からあの子を取り上げないで」
「しかし、君はてっきりあの旅役者と…」
「あんな人、あの日初めて会ったわ。私は誰かに嵌められたの。不貞の罪を着せられて、ライオスと離婚するように仕向けられたの」
犯人が誰かわからないが、目星は付いている。
ライオスたちの母親、アルカラス侯爵夫人か、それともポリアナか。もしかしたらライオスかも知れない。もしくは、全員が手を組んていたのかも。
そう考えて、自分の周りには自分を排除したい人間が大勢いたのだと思った。
マルグリットの問いに、レジスは表の方を振り返ってから、家の中に入り込んで扉を閉めた。
「四年前、私の任務先で熱病が流行った。一ヶ月半後、流行が収まりかけた矢先に私自身も熱病に罹り、二週間生死の境をさ迷った。その時に診てくれた医者に、発した高熱のせいで、もう子供は作れないだろうと言われた」
「え」
「だから、ライオスが亡くなった今、アルカラスを継ぐのは、君の子しかいない」
「そ、そんな…」
リオがアルカラスの唯一の後継者だと言われたことも驚きだが、彼がそんな病気に罹っていたことにも驚いた。そして密かに、彼の命が無事だったことに感謝した。もう二度と会えないと思っていた人に、こうして会えたことにも。
「よ、四年前?」
「高熱に伏せっている間に、家から手紙が届いていた。その手紙には、君が旅の役者と逢い引きしていたところを見つかり、そのまま離縁されたと書いてあった。すぐに帰りたかったが、医者の許可が下りず、私が戻ったのは君がアルカラス家からいなくなった二週間後だった。病に罹っていなければ間に合ったのに」
「う、うそ。だって…」
「嘘? 嘘とは何に対して言っている?」
マルグリットは頭が混乱し、すぐに答えることができなかった。
レジスが熱病に罹って、もう子供が作れないということもそうだが、彼女が四年前にライオスに離縁を突きつけられ、アルカラス家を追い出されたことを知ったのは、彼女がいなくなった後だったということも、彼女を驚かせた。
「ではあの手紙は?」
「手紙? 何のことだ?」
「不貞を働いた私を、アルカラス家の嫁として置いておくことは出来ない。即刻追い出すべきだと、レジスも手紙で言っていた。そう、お義母様が教えてくれたわ」
「そんな手紙、私は知らない」
レジスがそう言い、今になってマルグリットはあれが侯爵夫人の嘘だと気づいた。
「君はその手紙を、私が書いたと信じたのか」
冷静になって考えれば、レジスがあんなことを書く筈がなかった。
彼は、マルグリットが実家でどんな立場だったか知っている。アルカラス家を追い出されたら、どこにも行き場が無くなることも、わかっていたはずだ。
だが、それを今知ったところで、もうどうしようもないことだ。
マルグリットが、あの旅役者と一夜を共にした事実を無かったことにはできない。たとえレジスがいたとしても、何も変わらなかった。夫だったライオスが信じてくれなかったのだから。
「あの時の私に、あなたの手紙の真偽を疑う余裕なんてなかったわ。皆が私を責め、誰も私の声を聞いてはくれなかった。殆ど何も持たされず着の身着のまま追い出された」
あの少し前、体の異変に気づいていなければ、彼女は死を選んでいたかも知れない。
彼女の命を繋いだのは、リオの存在があったからだ。
「あなたに子供ができなくても、傍系から誰かを迎え入れれば」
「直系がいるとわかって、ライオスの子がいるのに、傍系から後継を選べというのか。あの子は両親には孫で、私には甥になる。私達にだって、あの子に会う権利がある。それをわかっているのか」
「お願い、私からあの子を取り上げないで」
「しかし、君はてっきりあの旅役者と…」
「あんな人、あの日初めて会ったわ。私は誰かに嵌められたの。不貞の罪を着せられて、ライオスと離婚するように仕向けられたの」
犯人が誰かわからないが、目星は付いている。
ライオスたちの母親、アルカラス侯爵夫人か、それともポリアナか。もしかしたらライオスかも知れない。もしくは、全員が手を組んていたのかも。
そう考えて、自分の周りには自分を排除したい人間が大勢いたのだと思った。