別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「さっきから着陸しようとしているのかしら?」

 誰かが呟いたが、答える人はいない。前輪なしでどうやって着陸するのか。できないからこうなっているなら、最後はどうなるの?

 不安で涙がこぼれそうだ。

「それにしてもパイロットたち、何度も頑張ってるよな」

 けれど、すぐ近くにいた男性の呟きを聞いて、 ハッとする。

 そうだ。私より実際に乗っている人たちの方が不安で、その状況の中でも綾人は副操縦士として機長と協力しながらなんとかしようとしているんだ。

「おかあしゃん?」

 凌空が不安そうに私を見つめてくるので、今度は笑顔を返す。

「うん。きっと大丈夫。飛行機も、お父さんも、絶対に」

 自分にも言い聞かせるように強く答えた。

 こんな時、なにもできずに祈ることしかできない自分がもどかしくて苦しい。でも綾人を信じる。信じられる。

『凌空はもちろん、可南子との約束は守る。だから、可南子の希望とか望むことをこれからは教えてほしい。ひとつずつ叶えていくから』

 綾人は約束を守ってくれる人だから。

 前輪が出ないまま着陸することが決まったとメディアを通して報道され、消火剤がまかれて白くなった滑走路に飛行機が入ってくる。

 飛行機の事故は離着陸時が一番多いと聞く。信じるとは言ったが不安が隠せない。もし、もしも目の前で飛行機が――。

「おかあさん」

 抱っこしていた凌空に呼びかけられ彼を見ると、先ほどとは違い彼は微笑んでいた。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 続けて私の頭を小さな手が撫でる。その仕草や表情が綾人と重なった。
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