別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 結局、リスト通りの操作を行っても状況は改善しなかった。

 こういった場合に備え、車輪は手動でも出せるようになっている。相沢機長の指示で俺は席を一度離れ、ハンドルを引いて前輪を下ろそうと試みるが、どういうわけかレバーを引ききれず、前輪のランプも異常を示したままだ。

 ギアダウンに加え、手動でさえ前輪が下りないというのはあまり考えられない。だとしたら、発想を変える。

「電気系統になんらかの異常があり、ランプが故障している可能性はあるでしょうか?」

 実際に前輪が出ている可能性を考える。けれど前輪はコックピットの下にあり、自分たちで確認はできない。

 現状を逐一管制官に伝え、地上の整備士とやり取りし、ローパスの許可が降りた。ローパスとは滑走路上を低空で通過することで、地上の整備士に前輪がどのような状態なのか、目視で確認してもらうためだ。

 滑走路が近付き、本来なら着陸しているのだと一瞬、頭をよぎる。

 可南子や凌空は俺が時間通り帰ってくると待っているかもしれない。これからどんな展開になっても、連絡できないのだと思うと胸が締めつけられた。

 弱気になるな。必ず無事に着陸して可南子と凌空のもとへ帰る。

 ローパスの結果、前輪は出ていないとの回答が地上整備士から寄せられる。ある程度、予想はしていたとはいえ、落胆は隠せない。けれどすぐに気持ちを切り替え、機長と話し合って次の手を考える。
< 161 / 189 >

この作品をシェア

pagetop