別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 時間は限られているが、少しでも前輪が出ない原因の可能性を探って対処していくしかない。焦りは禁物だ。

 ここで二度目のローパスを行い、機内アナウンスで乗客に現状を伝える判断を下した。そろそろ到着遅れの理由を伝えないと不安や不満が募る。それはやがてパニックを引き起こすからだ。

 機長には操縦に集中してもらい、俺は地上の整備士とやり取りしながらチェックリストに沿った操作を行い、あらゆる方法を試す。

 さらには急旋回して機体に負荷をかけたり、一度着陸してすぐに再上昇するタッチ・アンド・ゴーの衝撃で前輪が出ないかやってみたりしたが、前輪は出なかった。

 残燃料が千ポンドを切り始め、コックピットに一瞬、沈黙が流れる。もう前輪は出ない。そう思っているのは機長も同じだろう。残された手段は胴体着陸だけだ。

「相沢キャプテンのタッチ・アンド・ゴー、完璧で勉強になりました。今日ご一緒できて光栄です」

 俺から口火を切り、機長の目を見て彼への信頼を言外に伝える。タッチ・アンド・ゴーは訓練で行うが、相沢機長の技術の高さはもちろん状況を的確に判断する様は一流で、目指すべき姿だ。

 機長は目を見開いた後、微笑んだ。そしてすぐに真剣な面持ちになる。

「管制官から許可が下り次第、前輪が出ない状態で着陸する」

「了解」

 それしか方法が残されていないならと覚悟を決める。当然、成功するために行うのだ。続けて相沢機長がふと漏らす。
< 162 / 189 >

この作品をシェア

pagetop