別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「この状況なら、多少なりとも焦りや不安が滲んでもおかしくないが、進藤くんはそれを感じさせないね」

 落ち着き払っているのは機長も同じだ。正直、感じさせないだけで内心では最悪の事態の可能性も浮かんでしまう。けれど、すぐに打ち消して前を向く。

 今朝、眠っている可南子と凌空を起こさないようふたりの寝顔を見てから出社した。幸せを嚙みしめ、帰ってきたら笑顔でふたりが迎えてくれると想像すると温かい気持ちになる。

 ずっと欲しかったものが手に入った。幸せにすると誓ったんだ。もう可南子を不安にさせて手放すような真似はしない。

 管制官とのやり取りがひと区切りして 、俺は機長に答える。

「相沢キャプテンが一緒だからです。なにより愛する妻と子どもが待っていますから。必ず無事に着陸させます」

 それから機長と話し合って胴体着陸の準備を始める。緊急脱出定期訓練の時に後輪や前輪が下りない場合のシナリオを独自に作成し訓練した経験を思い出し、客室乗務員と連携を取りながら乗客に事態を伝える。

「これから五分後に胴体着陸を試みます。私も副操縦士もこのような状況に備え、十分に訓練を積んでいます。安心してください」

 機長の機内アナウンスが入り、続けて俺もアナウンスするよう促される。

「機長も申し上げた通り、私たちは多くの訓練をしています。安心してこれから先は、客室乗務員の指示に従ってください」

 管制官から許可が下り、空港の風向きや風速などの情報が伝えられる。左手の白い手袋の下にある結婚指輪にそっと触れ、着陸に向けて意識を集中させた。

 ◇ ◇ ◇ 
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