別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 視線を滑走路に戻すと、飛行機は後輪を着地させた後、機首をぎりぎりまで地面につけずスピードを落としていき、ややあってゆっくりと機首が滑走路に傾き接地した。地面との摩擦でわずかに火花が起こり、その光景に心臓が止まりそうになる。

 しかししばらくして機体は静かに停止した。……止まった。その瞬間、デッキから歓声と拍手が湧き起こる。

 全身の力が抜け、私は凌空を抱っこしたままその場にへたり込みそうになった。なんとか足に力を入れるが、安堵感に涙腺が緩む。

 着陸できた。綾人、無事だったんだ。

「おとうしゃん、きた?」

 不安そうに尋ねる凌空に力強く頷く。

「うん。お父さん来たよ。無事に飛行機を着陸させて帰って来たよ」

 目尻から涙がこぼれ、それを指先で軽く拭う。

  滑走路では、待機していた消防車が消火剤を機体にかけているが、念のためだというのがわかる。操縦席が遠目に見え、中に人がいることが確認できた。

 娘の無事を確認したいと場所を移動する老夫婦に私も凌空を連れて続く。あの飛行機に乗っていた乗客はこの後のこともあるため、特別な到着口を使うらしく、搭乗者の身内だと伝えたら、案内された。

 すでに搭乗者の家族、空港関係者やマスコミと思われる人が待機しており、しばらくして乗客が姿を現した。

 歓喜の声、涙ぐむ声などいろいろで、明るくマスコミ対応をしている人もいる。ここまで一緒に来た老夫婦は娘さんと無事に会えて、安心した表情であれこれ話していた。

 もしかして、綾人はここから出てこないかな?

 そう思っていたら、機長と思われる人と並んで綾人が姿を現した。すぐさま機長は関係者らしき人に声をかけられ対応し 、綾人の視線がなにげなくこちらに向いた。
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