別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 アパート近くのコンビニで合流し、正確なアパートの場所を告げ彼には来客用駐車場に車を停めてもらう。

「部屋まで荷物、運ぶよ」

「ありがとう」

 今度は彼の申し出を素直に受け入れた。そして自分から思い切った提案をする。

「あの、よかったら少しだけ上がっていく?」

 我ながら矛盾している。綾人とは必要以上に関わらないと決めたのに。凌空のことを綾人には知られてはいけない。けれどこのまま彼にしてもらってばかりで別れるのも気が引ける。

「お礼っていうほどなにもないけれど……冷たい飲み物くらいご馳走するよ」

 発言して、先ほどカフェで飲み物を注文したのを思い出す。そもそも予定はないと言っていたけれど、彼のプライベートの時間を割いてもいいのか。

「あ、もちろん無理にとは」

「可南子がかまわないなら寄らせてもらう」

 そう返してきた綾人の顔がなんとなく嬉しそうで、胸が締めつけられた。

 凌空が一歳になった頃、きりのいい四月からカサブランカの支社に職場復帰することになり、会社からの家賃補助もあって比較的新しく利便性のいいアパートで部屋を借りた。二階の一番奥の角部屋で間取りは1LDKになる。

「ただいまー」

「おかえりなさい。凌空、まずは手を洗うよ」

 一緒に帰ってきたが帰宅の挨拶を返し、まずはエアコンを稼動させてから、凌空を洗面所に連れていく。その合間に綾人に声をかけた。

「ごめん。散らかっているけれど適当に座って」

 凌空もいるし、思っていたより気を張らずにいられるかもしれない。違う緊張はあるけれど。
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