別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません

「やめ、て。綾人は悪くない。私が……」

 それ以上は声にならない。回された腕の感触も温もりも、私のよく知っているものだ。別れてから何度も綾人の夢を見た。全部過去のもので、懐かしくて、恋しい。それを私は、自分から手放したのに――。

「可南子。もう一度言う、結婚しよう」

 綾人の言葉に驚いて、顔を上げる。わずかに腕の力がゆるめられ、彼はしっかりと私と目を合わせてきた。

「凌空の父親だと知ったから言っているんじゃない。可南子を愛しているんだ。別れてからもずっと忘れられなくて、何度も後悔した。もう何年も離れるような真似はしない。可南子も凌空も絶対に幸せにしてみせるから」

 綾人の真剣な面持ちと声に、気持ちが揺れる。綾人の事情をわかっていたくせに、遠距離恋愛になるのを理由に別れを告げた。それを彼はいまだに気にしているんだ。

 綾人の誠実さは本物だ。でも――。私は静かに首を横に振った。

「無理……無理だよ、結婚なんて」

 私の返答に、綾人はつらそうに顔を歪める。

「なぜ?」

 彼の疑問はもっともだ。答えるかどうかしばし迷い、けれどもうはっきりさせておきたいと意を決する。

「だって綾人は……川嶋多恵さんと結婚するんでしょ? 川嶋工業の孫娘で私と付き合う前、結婚前提で彼女と付き合っていたって……」

 よれよれの声で訴える。私の発言に綾人は目を丸くした。

「誰にそんなことを?」
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