乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
ついと素っ気なく逸らされたのを、ガラスを隔てて点々と浮かぶ庭園灯の灯りへ目を移しながら。

「あたしは買いかぶってんじゃなくて、値段なんかつけられない男だって知ってるだけよ。億を積まれたって、なにと引き換えだって、榊より価値のあるものなんか、な」

「ねぇよ俺も」

言い終わるまえに後ろからきつく抱き竦められてた。

「・・・知ってるってば」

あやすように、固く巻き付いた腕に掌を重ね返した。背中に堪えるような嗚咽がくぐもった。気がした。

空港への迎えは哲っちゃんと一緒だったから車が別々で、そのあともすれ違いばっかりだった。やっと、笑って送り出せなかったあの朝に繋がった気がした。

「この世の誰もあんたの代わりになんないんだから、もっと自分を大事にしてよね」

愛しさで恨み言を吐く。

「ちゃんと帰ってこられたんだから、・・・神さまだって奇跡だって三度目はないんだから、次にあたしを泣かせたら破門するからね」

「無茶はしねぇよ・・・」

「呼んだら手の届くとこにいてよ。呼ばなくても、ちゃんとそこにいてよ?」

「・・・俺を信じやがれ」

低く、深く、頭の天辺からつらぬかれた声に胸の奥がきゅっと鳴いた。

ひとりの女として応えられないあたしが、あんたにあげられるのはね。

「約束してよ。もしどうしても先に死ぬなら、その時はあたしの腕の中で死ぬって」
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