乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
刹那、体の力がふいに抜けたようにあたしを捕まえてた腕がゆるんだ。ゆっくり振り仰げば片手で顔を覆う榊がいた。食いしばる口の端、震える肩、殺す声。

「嫌がっても離すつもりないから観念してよ」

今度はあたしからやんわりハグ。

この体も心も残らず真のものだから、あんたにはあげらんない。でも約束はね、ほかの誰も割り込めないふたりだけの特別。あたしと榊を結ぶんだよ、叶うまでずっと。

「最後まで一緒なんだからね」

心の底から願ってる。求めてる。愛に似てる。

「・・・・・・本望だろが」

掠れ声で聞こえた。

背中に回した指先に一瞬、力をこめハグを解く。あとは言葉にしなくても通じてる。あたし達だもん。

思いきり顔を背けた男が「・・・先に戻ってろ」とつれなく呟いたのを、わざと意地悪を装った。

「お腹こわしてトイレから出てこないってみんなに言っとく」

きっと涙の跡を洗い流して、仏頂面で、空気みたいに傍にいてくれる。かまったら、うんざり顔が返ってくるの、いつもみたいに。

鼻の奥がつんとした。渡り廊下を踏みしめながら今になって込み上げた。

よかった。変わんないで、榊のままでここにいてくれて、明日もあさってもいてくれて、話せて、笑えて、名前を呼べて・・・!
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