乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
自分は二の次。…当たり前みたいに。

あの雨の事故で運命は曲がりくねって、真と離れそうになって、あのまま仁兄と結婚してたら。それはそれで余るくらいの愛情を注いでもらえた。いつかは幸せって呼べたかなって思う。

「甘ったるい勘定で女を選ぶ気はねぇよ。俺とお前の役に立つか立たないか、それ以外なにがある」

けっこう飲んでるはずなのに、酔いは醒めたみたいな冷ややかな声。

「縁組は組と組の大博打だ、利権も金もからむ。宮子が浮かれるようなもんじゃないぞ」

あたしの結婚は、優しい家族が叶えてくれた甘い夢。現実も知らない箱入りお嬢なのを承知で言うね。

「夫婦になるのは生身の人間だよ?機械じゃないんだから変われるよ?最初からそんな風に決めつけなくても・・・っ」

「・・・じきに志信兄貴が来るぞ、戻ってろ」

吸いさしをライターみたいな携帯灰皿に突っ込み、上着の胸ポケットに仕舞った仁兄はそれには答えなかった。

「地球の裏までトイレ行ってたのオマエ」

甲斐さんと話し込んでた真があたしに気付くと、おどけるように笑う。

「志信さん着いたってさ。ツレがいるらしーよ?」

イタズラ小僧みたいな顔。極道の闇を見ずにいられてるのは、この顔のおかげ。

遅れて隣のテーブルに腰を下ろした仁兄のポーカーフェイスを盗み見ながら、胸の奥がきゅっとした。あたしはどこまで分かってたの?一ツ橋を背負うその覚悟を。
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