早河シリーズ第二幕【金平糖】
 好きな人なのにどうして怖いの?
 好きな人なのにどうして嫌だと思うの?
 怖い。嫌だ。“初めては好きな人と”って決めてるのに。好きな人なのに幸せじゃない。

「やだ……早河さん止めて……」
『お前が望んだんだろ』
「……嫌だ! 止めて!」

有紗が悲鳴に近い叫び声をあげた。早河の動きが止まる。

『やっとわかったか?』

 早河は有紗から離れて起き上がった。有紗はベッドの上でうずくまって涙を流している。やれやれと溜息をついて早河は有紗の肩から毛布をかけた。

『これが大人として扱われるってことだ。有紗はまだ男ってものがどんな生き物か知らないだろ? 男は誘惑されれば好きでもない女でも遠慮なく抱ける。女から誘惑しておいて、いざとなったらやっぱりダメですごめんなさい、なんて大人の世界では通用しない』

有紗の隣に腰を降ろし、震える彼女の背中を撫でる。もぞもぞと動いた有紗が毛布の隙間から早河を覗いた。

「もしかして全部わざと?」
『当たり前だ。俺は女子高生には欲情しません』
「私が抵抗しなかったらどうする気だったの?」
『本気で襲う気はないからな。寸前のところで止めたよ。お前……処女か?』
「……うん」

毛布で半分ほど隠した有紗の顔は真っ赤になっていた。

「バカみたいだよね。必死で大人ぶって男のことだってわかった気になって」
『大人が嫌いなくせにどうしてそんなに大人ぶろうとする?』
「だって子供だって思われたくないから」

 早河は有紗の顔を隠す毛布を下げて彼女の乱れた前髪を整えてやる。目元に涙の跡が残っていた。

『今の有紗は初めて会った時よりも無理した感じがなくていいと思ってるんだけど。大人ぶって無理して冷めたフリしてる有紗よりも、素直でワガママで子供っぽい有紗の方が俺は好きだな』
「早河さんて……ずるい。私の気持ち知ってるのにそんな簡単に好きって言って」
『言っておくが今の好きは人としての好きの意味。恋愛感情じゃない』
「わかってるもん」

拗ねて頬を膨らませる有紗が一番、“彼女らしい”と思う。

『大人になるってことは、自分の言葉や行動に責任を持つってことだ。自分でしたことの責任は自分でとる。大人になろうとするなら責任の持てない言動はするなよ。わかったな?』

有紗が頷いた。おとなしくなった彼女を彼は抱き締める。

『有紗の気持ちは嬉しいよ。でも今はまだ有紗の気持ちには答えられない。もう少し大人になって、まだ俺に気があればまた迫ってこい。ちゃんと大人として相手してやるから』
「うん……」

 早河とのキスは煙草の味がした。甘いのに苦い、少しだけ大人に近付いた恋の味だった。
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