眠りの令嬢と筆頭魔術師の一途な執着愛

19 噂

「レイナー騎士団長!」

 声をかけてきた男性を見て、フェインが驚いたように声を上げた。

「フェイン、久しぶりだな。息災のようで何よりだ」
「はい、レイナー騎士団長もお変わりないようでよかったです。ローラ、こちらはサイレーン国騎士団のレイナー騎士団長だ」
「初めてお目にかかります、ヴェルデ・フィオリスの妻、ローラと申します」

 フェインにレイナーを紹介されたローラは静かに微笑み、ドレスを両手で摘みふわりとお辞儀をする。ノエル同様、レイナーもローラの所作の美しさに驚いて目を見開いた。

「こんなに所作の美しいご令嬢は初めて出会ったな。なるほど、噂は本当のようだ」
「噂?」

 レイナーの言葉に、フェインが目を細めて警戒する。

「筆頭魔術師ヴェルデが妻にしたのは、隣国で百年も眠り続けた妃候補だった令嬢だという噂だ」

 フェインは一瞬驚愕したが、すぐにいつもの無表情に戻ってレイナーを見た。

「なんですか、その噂。初めて聞きましたよ」
「ほう、ヴェルデの一番すぐ近くにいる君がその噂を知らないだなんて逆に不思議だな」

 フェインを見下ろしながらレイナーは低い声でそう言い放つ。その風格は威圧的で恐怖さえ与えかねない。だが、フェインはローラを庇うようにして立ち、首をかしげた。
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