眠りの令嬢と筆頭魔術師の一途な執着愛
「実は貴族の一部の間で、ヴェルデの結婚相手について色々と物議を醸し出していてな。噂では百年眠っていた眠り姫がこの国に来たせいで、隣国から姫を狙う人間が国内に侵入した、と。しかも隣国だけではなく他の国からもそのような人間がいたとわかってね。そんな人間が国内をうろうろしていたのは問題だと言う者もいれば、そもそも姫を狙うフリをしているだけで、国内に侵入することが目的で姫も其奴らの仲間なのではないかと勘繰る者までいる」

 レイナーの話を聞きながらヴェルデの顔はどんどん険しくなっていく。

「それで、騎士団長である俺に矛先が向いたわけだ。直接接触して、探りを入れてこいと言われたのだよ。だが実際に会って話をして取り越し苦労だったとわかったよ。ヴェルデの奥様は本当にヴェルデを思ってこの国にいるようだ」

 そう言われて、ローラは微笑みながら頷く。だが、ヴェルデの顔は晴れなかった。

「そのローラを疑っている貴族たちがどなたなのか教えていただけますか。俺が直々に話をつけに行きましょう」
「その必要はない。そんなことしてみろ、お前はその貴族たちに怪我でもさせてしまいそうだからな」

 ザワッとヴェルデたちの周囲がざわつき、声のする方を振り向くとそこにはサイレーン国第一王子のガレスがいた。

「ガレス殿下。またあなたはそうやって突然ひょっこりと姿を現す。みんなびっくりしてしまいますよ」
「この方が楽しいだろ?そんなことより、ローラ嬢がティアール国のスパイでないことは、ヴェルデがローラ嬢を連れてきた時に俺が直々に判断してわかっていることだ。だが、ローラ嬢を狙って隣国から人がやってきている事、さらには隣国以外からもローラ嬢を狙っていた人間がいたことがわかって、流石に穏やかではなくなっているのも事実だ」

 ガレスの話にヴェルデは渋い顔をする。

「それでだ、今日ここで、ローラ嬢の潔白を証明しようと思う。そのためにお前たちには絶対来てもらう必要があったんだ」
「潔白を証明する?」
「ローラ嬢、大変申し訳ないんだが、この国の茶番に少しだけ付き合ってもらえるか?」

 ガレスにそう言われて、ローラは不思議そうな顔で首を傾げた。

「ここで君の過去を、百年眠り続けた眠り姫だったことを明かす」
「ガレス殿下!?」
「もちろん、なぜ百年も眠り続けることになったのか、詳しいことは伏せる。だが、隣国の眠り姫だったことを公表し、その上で俺が直々にローラ嬢を認めたのだとみんなの前で宣言すれば、とやかく言ってくる連中は黙るだろう」
「ですが、それはティアール国が許さないのでは?あちらの国でローラ様のことは王家の一部の人間しか知らないことになっています」
「ローラ嬢はお前と結婚した。もう立派にこの国の人間だ。それに、ティアール国でもローラ嬢について完全に隠すことはできなくなっているそうだ。この件についてメイナードには了承を得ている」
「メイナード殿下に……!?」

 メイナードの名前が出てきて、ヴェルデは驚いた様子でガレスを見る。まさか、メイナードが了承しているとは思わなかったのだ。

「ローラ嬢。あなたにとってこれは酷なことかもしれない。だが、この国で生きていくと決めた以上、決断してもらわなければ困る。いつもどこかで疑いの目を向けられ探りを入れられ続けるか、公表して堂々とこの国の人間として生きていくのか。どちらがいい?」

 ガレスはローラの顔をじっと見つめて尋ねた。そのガレスの瞳を、ローラは真剣な眼差しで見つめ返す。そこには怯えた様子はどこにも見当たらない。そして、ヴェルデを見て口を開いた。

「私は、この国でヴェルデ様と共に堂々と、穏やかに生きていきたい、ただそれだけです。そのために必要なのであれば、過去を公表することも厭いません。もちろん、ヴェルデ様がそれを良しとするなら、です」
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