【更新】護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
アマンダからのびしっとした号令を受け、エリアナは黒い扇子をパサッと広げて口元を隠し、彼女たちに視線を向けた。
「マア、アナタゴトキガ、ワタクシニカナウトデモ?」
セリフの抜粋はもちろん【若き公爵の愁いと最愛】からで、仕草に関する脳内師匠はヴァイオレット・ズルイータである。扇子を広げるのもさらりとこなせ、相手を見下す視線も我ながらに完璧にできた。
──さすがナンザイ王国最強の貴族令嬢。
そう、胸を張ったエリアナだけれど?
数秒間室内に沈黙が落ち、アマンダとカトリーヌが小さな息を吐いた。
「ダメです。エリアナ、セリフが片言になってますわ。まるで迫力がありません。見本をお見せしましょう、こうです」
アマンダは美しい手つきで扇子を広げて口元を隠した。黒いレース模様から覗く怜悧な瞳が凍てつくようにエリアナに刺さる。
「〝まあ、あなたごときが、このわたくしに敵うとでも?〟」
──なんてことなの!?
エリアナはわなわなと震えた。
アマンダの扇子を持つ手の優雅さ、視線を向ける角度、冷徹な声音。思わずひれ伏したくなるほどの威厳。さすがである。
──完璧すぎる。
脳内のヴァイオレット師匠など吹き飛んでしまった。
威厳あるアマンダの声は、びしっと突き刺さるように響いた。エリアナには到底出せない迫力である。アカデミーで居丈高な子息たちを相手にしてもひるまなかったアマンダの胆力は、一朝一夕には身につかない。
どうすればいいのか。
「エリアナの仕草と佇まいは悪役らしいのに、どうしてセリフが棒読みになるのでしょう?」
困ったわ、と頬に手を添えて首をかしげるのはカトリーヌだ。
体はヴァイオレット・ズルイータのものでも、口調や性格はエリアナのままなのだ。どうにもぽやぽや感が抜けないのである。
「すみません。おふたりに来ていただいたのに、不甲斐なくて」