【更新】護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
任務完遂のためにもふたりに負けてはいられない。
そうだ、今こそ猛練習したセリフを言うべき時ではないか。
満を持してセンスをパサリと開いて口元を隠し、視線に角度をつければ迫力が出せている……はずだ。
「まあ、あなたごときが……」
良い感じに意地悪さを出し始めたら、突如一人の妃候補が「わあぁぁっ」と声を上げて阻まれた。
びっくりして見れば、嗚咽を漏らしながら顔を覆っているのはエリアナの二つ隣にいる金髪の候補だった。
「まあ、ヒロイニアさま、突然どうなさったんですか?」
即座に反応したのはフロリアだ。
「どうもこうもございませんわ! ヴァイオレットさま、ひどいじゃありませんか! わたくしの黒薔薇を盗むなんて!」
涙目でびしっと指したのは、エリアナの胸元を飾る黒い薔薇だった。
「黒薔薇はわがジャナイナ家が総力を挙げて品種改良し続け、一株だけようやく咲いたのをお持ちしようとしていたのです。けれど今朝になって大切に保管されていたはずの黒薔薇がなくなっていました! ヴァイオレットさまが胸元につけてらっしゃるのが、まさにそれですの!」
エリアナはぽかーんとして、涙で頬を濡らしているヒロイニアを眺めた。
胸元の黒薔薇はルードリックから「タウンハウスに咲いていた。悪役を頑張るエリアナに」と、おくられたもの。まさか大公殿下が盗みを働くはずもない。
説明すれば疑いは晴れるけれど、妃候補試験の場では、ルードリックの名を出さないほうがいいと思える。励ましのためとはいえ、一般的な観点では、未婚の大公殿下が陛下の妃候補に花を贈るのは憚れることだろうから。
──それなら、身内のお兄さまからもらったことにすれば?
エリアナはコホンと喉を鳴らして扇子を広げなおし、この世の終わりのようにさめざめと泣いているヒロイニアを見やった。