【更新】護国の聖女でしたが別人にされて追放されたので、隣国で第二の人生はじめます!
古代文字で構築された魔法陣が幾重にも重ねられていて解析が難しく、今の魔術師部と職人技術の粋を集めても作り直すことはできないらしい。
「結界は今後の課題だな。それよりもヘイブン、事は急を要するぞ。見境がなくなってきた」
「ああ、わかっている」
小声で二言三言交わし、何事かを取り決めている。
かいがいしくルードリックの頬についたクリームをぬぐう皇太后と、真剣な表情で幼児と会話を交わす陛下。三者の図がなんともシュールである。
──殿下がいること、みんなにバレてないかしら。
エリアナはそっと振り返り、ガゼボの様子を気にしている妃候補たちを見た。みんな陛下の仕草ひとつも見逃さないよう凝視している。
──でも殿下のことは見えないみたい?
トーイから魔道具を借りているのなら、なにかしらの魔術を使用してるかもしれない。
──たとえば幻影とか……って……あれはなに!?
ひとりの候補の席からぽわんと浮かびあがったピンク色の靄が、くにゃんと曲がって文字を形成している。その字面に、グレッタ事件以来の衝撃を受けた。
緊張を隠せずにいる候補の前に置かれたかごの上に【強力惚れ薬】の文字。禁止されている精神を犯す呪いだ。
──あのお方は、モブダナー伯爵家の……。
先のサロンでは特に目立つことがなかった候補だ。
まさか、茶葉の中に混ぜてあるのだろうか。陛下が飲めばたちまち彼女に惚れてしまい、その場で皇妃にすると宣言されるかもしれない。
「あ、あの、陛下。このあと犯人とは別の候補の方に薬を盛られると思います……惚れ薬なのですけど、どうしましょう?」
陛下はきょとんとし、皇太后は「あら、まぁ」と驚く。ルードリックは眉根を寄せたが無言だ。
「はははは。この場で毒を使うとは、よほど切羽詰まっているのだろう。いいだろう。私が対処する」