早河シリーズ第六幕【砂時計】
『真紀を尾行してどういうつもりだ?』
『尾行じゃなく監視だ』

 男はスーツの胸ポケットからある物を出して矢野に見せる。それはこの国の治安維持のために働く公務員の証。真紀も同じ物を持っている。

 矢野は男が掲げた警察手帳の証明写真と目の前の男の顔を交互に見た。

『あんた刑事だったのか』
『警視庁公安部の栗山だ』

 栗山潤は警察手帳を胸ポケットに戻した。矢野は栗山をねめつける。

『尾行も監視も似たようなものだろ。俺が聞きたいのは、なんで真紀が公安の人間の監視対象にされてるのかだ』
『早河元刑事が逮捕した前科者を狙った一連の殺人に使用された銃について、情報屋のお前はどこまで掴んでいる?』
『銃弾は9ミリパラベラム弾、使用拳銃はベレッタの説が濃厚なんだろ? ベレッタはカオス幹部の皆様の愛用銃らしいし、6月に解体された高瀬組からの押収品でもある。そしてその押収品の銃が和田組に流れている……ってことを言いたいのか?』

栗山はかすかに笑った。

『そこまで掴んでいるなら話が早い。高瀬組から押収した銃が和田組に流れている。和田組はカオスと通じている組だ。今回使用された銃はその銃と同型の可能性が出ている』
『つまり公安が警察の内部調査をしているってことだな? 警察の中にいる裏切り者を見つけるために』
『警察内部に和田組とカオスと繋がっている人間がいるのは確かだ。矢野一輝、お前が話が通じる奴だと見込んで忠告しておく。俺の仕事の邪魔はしないでもらいたい』
『あんたの仕事の邪魔はしねぇよ。ただ残念だが、あんた達が探している裏切り者は真紀じゃない』

 矢野は自販機に小銭を入れてコーヒーのボタンを押す。ガチャンと音を立てて下に落ちた缶コーヒーを取り出す前に彼は再びコイン投入口に小銭を入れた。

『どうして小山刑事が裏切り者でないと言い切れる? 自分の女だからか?』
『へぇ。公安の刑事さんは誰と誰が付き合ってるのかも把握してるのかよ。そりゃあ俺の女だから真紀はこの世で一番いい女に決まってるけど?』

矢野は口元を上げてカフェオレのボタンを押した。最初に押したボタンから出てきた物は矢野の分のブラックコーヒー、このカフェオレは真紀の分だ。

『でも理由はそれじゃない。真紀は刑事の仕事に誇りを持ってる。あいつは刑事である自分を裏切ることは絶対にしない』

カフェオレの缶が受け取り口に落ちた。矢野は身体を屈めて二つの温かい缶を取り出す。

『それに真紀を監視するならお門違いだぜ。公安もまだまだだねぇ』
『何?』

 栗山の長めの前髪の奥の額に青筋が立つ。矢野はコートの両ポケットに缶コーヒーを押し込むと栗山のモスグリーンのコートの襟を掴んだ。
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