早河シリーズ第六幕【砂時計】
明鏡大学総合文化学部2年生の浅丘美月は講義室中央の列に座って手元のノートと黒板に交互に視線を移した。
10月から12月の第一週までの毎週月曜日は選択科目の講義があり、美月は〈ギリシャ神話と人間心理学〉を受講した。ギリシャ神話を学び神話から人間心理を読み取る授業だ。
毎年この講義を担当している教諭は心理学専門の小林教授だが、小林はヨーロッパの研究機関に招かれて長期出張で不在だ。
小林教授の代わりに講義を担当するのは、外部から招いた非常勤講師の三浦英司。
『では今日はここまで』
腕時計を見た三浦英司は低音の声を教室に響かせた。
「はぁ……三浦先生かっこいい」
美月の隣に座る友人の志田絵理奈はうっとりした表情で黒板の前に立つ三浦を見つめている。美月はまたかと苦笑いして、シャープペンシルをペンケースにしまい、三浦に視線を移した。
確かに三浦英司は格好いいと思う。イケメンだとか、美形だとか、そう言った類いではなく、佇まいや雰囲気が洗練されていて格好いい。
年齢は絵理奈の予想では三十代半ば。長身で細身のわりには肩幅は広い。
男性にしては肩にかかるくらいの長めの髪、銀のフレームの眼鏡が知的な印象だった。
どこか冷たくミステリアスな雰囲気を与える三浦はその風貌から女子学生には密かに人気がある。授業もわかりやすいと評判だ。
しかし三浦は授業以外は学生とほとんど話をしない。近寄りがたい雰囲気があり、学生達も三浦に話しかけるのを遠慮してしまうのだ。
三浦ファンの絵理奈からすればそのミステリアスさが三浦の魅力だと以前に力説していたが、美月には彼の何がそこまで魅力的なのかわからなかった。
「三浦先生って彼女いるのかなぁ? あの年齢なら結婚もしてそうだけど結婚指輪なかったし……いやでも、仕事の時は指輪嵌めないタイプかも?」
隣では変わらず三浦に熱い眼差しを向ける絵理奈が独り言を呟いている。
美月は講義室を見渡した。授業終了のチャイムと共に学生達が講義室を出ていく。
これから昼休みだ。次の講義があるわけではないから慌ててここを出る必要もない。
でも美月は三浦の授業の時はいつも授業が終わると早く講義室を出たくなる。理由はわかはないが、きっと自分は三浦のことがそれほど好きではないのかもしれない。
彼女はバッグにノートと教科書を入れて立ち上がった。
「絵理奈、行くよ」
「えっ……美月、ちょっと待って! 三浦先生に彼女がいるか聞こうよ」
絵理奈が美月の腕を掴んですがり付く。美月は呆れた顔で再び椅子に着席した。
「はぁ? なんで?」
「だってあの謎に包まれた三浦先生のプライベート気にならない? もう教室には私達と先生だけだしさ……」
いつの間にか講義室には美月と絵理奈、三浦だけが残っている。それもこれも、絵理奈がいつまで経っても教科書やノートの片付けをせずに三浦ばかり見ているからだ。
10月から12月の第一週までの毎週月曜日は選択科目の講義があり、美月は〈ギリシャ神話と人間心理学〉を受講した。ギリシャ神話を学び神話から人間心理を読み取る授業だ。
毎年この講義を担当している教諭は心理学専門の小林教授だが、小林はヨーロッパの研究機関に招かれて長期出張で不在だ。
小林教授の代わりに講義を担当するのは、外部から招いた非常勤講師の三浦英司。
『では今日はここまで』
腕時計を見た三浦英司は低音の声を教室に響かせた。
「はぁ……三浦先生かっこいい」
美月の隣に座る友人の志田絵理奈はうっとりした表情で黒板の前に立つ三浦を見つめている。美月はまたかと苦笑いして、シャープペンシルをペンケースにしまい、三浦に視線を移した。
確かに三浦英司は格好いいと思う。イケメンだとか、美形だとか、そう言った類いではなく、佇まいや雰囲気が洗練されていて格好いい。
年齢は絵理奈の予想では三十代半ば。長身で細身のわりには肩幅は広い。
男性にしては肩にかかるくらいの長めの髪、銀のフレームの眼鏡が知的な印象だった。
どこか冷たくミステリアスな雰囲気を与える三浦はその風貌から女子学生には密かに人気がある。授業もわかりやすいと評判だ。
しかし三浦は授業以外は学生とほとんど話をしない。近寄りがたい雰囲気があり、学生達も三浦に話しかけるのを遠慮してしまうのだ。
三浦ファンの絵理奈からすればそのミステリアスさが三浦の魅力だと以前に力説していたが、美月には彼の何がそこまで魅力的なのかわからなかった。
「三浦先生って彼女いるのかなぁ? あの年齢なら結婚もしてそうだけど結婚指輪なかったし……いやでも、仕事の時は指輪嵌めないタイプかも?」
隣では変わらず三浦に熱い眼差しを向ける絵理奈が独り言を呟いている。
美月は講義室を見渡した。授業終了のチャイムと共に学生達が講義室を出ていく。
これから昼休みだ。次の講義があるわけではないから慌ててここを出る必要もない。
でも美月は三浦の授業の時はいつも授業が終わると早く講義室を出たくなる。理由はわかはないが、きっと自分は三浦のことがそれほど好きではないのかもしれない。
彼女はバッグにノートと教科書を入れて立ち上がった。
「絵理奈、行くよ」
「えっ……美月、ちょっと待って! 三浦先生に彼女がいるか聞こうよ」
絵理奈が美月の腕を掴んですがり付く。美月は呆れた顔で再び椅子に着席した。
「はぁ? なんで?」
「だってあの謎に包まれた三浦先生のプライベート気にならない? もう教室には私達と先生だけだしさ……」
いつの間にか講義室には美月と絵理奈、三浦だけが残っている。それもこれも、絵理奈がいつまで経っても教科書やノートの片付けをせずに三浦ばかり見ているからだ。