早河シリーズ第六幕【砂時計】
三人の前科者が殺された前科者連続殺人の犯人として、退職した元警察官の犯行であったと警視庁が正式発表した。
早河は病室のテレビで警視庁の記者会見の中継を見ていた。画面に映るのは2年前に射殺された門倉元警視総監の後任としてその任に就いた笹本警視総監。
マスコミは半年前に解体された九州最大の暴力団、高瀬組から押収した拳銃が関東の暴力団の和田組に流出していた件についても厳しく追及しているが、それについて警察は多くを語らない。
カメラのフラッシュが焚《た》かれる中、神妙な面持ちで頭を下げる笹本警視総監が早河には白々しく見えた。
稲本香澄への殺人未遂もケルベロスである原昌也の指示が働いていたが、警察は実行犯を挙げられずにいる。
原昌也は取り調べに黙秘を貫いたまま、留置場で勾留中だ。原の使用していた2台の携帯電話と原の自宅のパソコンは初期化がかけられ、データの復元不可の状態になっていた。
原の逮捕を察知したカオス側が組織に繋がる痕跡を抹消する目的で内部データを破壊した。
いつものカオスのやり口だ。
黙秘を通す原がひとつだけ語ったことがある。それはカオスの理念。
早河が過去に逮捕した前科者達の殺害も稲本香澄の殺害計画も、原にとっては犯罪劇の演出の一部に過ぎない。
舞台設定を整え、最高のキャスティングを揃える。演出家と主演は殺人者。
素晴らしいストーリーには栄誉と拍手を。
駄作なストーリーには死の制裁を。
*
警視庁の留置場で原昌也の死体が発見されたのは11月14日土曜日の午前7時だった。
留置場で定められた起床時間になっても姿を現さない原を不審に思った看守が彼の留置室の鍵を開けて頑丈な鉄の扉を開くと、敷かれた布団の上で原が息絶えていた。
死因は服毒死。枕元にアルミに包まれた錠剤が数個転がっていた。
警視庁は原の死を自殺と判断したが、警察の管理下に置かれた留置場内で原がどのようにして毒物を入手したかは明らかになっていない。
15日の夜、退院した早河の自宅を上野警部が訪れた。
なぎさが早河の自宅のキッチンで夕食の準備をしている。上野はその光景を見て感慨深げに目を細めた。
『お前となぎさちゃんが収まるところに収まってくれて安心したよ。香道も天国で喜んでいるだろうな』
『そうあってくれるといいんですが……。恵さんはどうしていますか?』
原に操られていた桐原恵も、なぎさへの拉致監禁、早河への拳銃発砲と決して罪は軽くない。
『聴取にもきちんと応じている。彼女がお前への殺意が本当にあったとは思えない。やり場のない怒りを誰かにぶつけたかったんだろうな。それを煽ったのが原……ケルベロスだ』
原昌也が留置場で自殺したことは公にはされていない。
両親が他界している原は父親側の祖父母に引き取られ、奨学金で大学を卒業。その後に警察官となった。
早河は病室のテレビで警視庁の記者会見の中継を見ていた。画面に映るのは2年前に射殺された門倉元警視総監の後任としてその任に就いた笹本警視総監。
マスコミは半年前に解体された九州最大の暴力団、高瀬組から押収した拳銃が関東の暴力団の和田組に流出していた件についても厳しく追及しているが、それについて警察は多くを語らない。
カメラのフラッシュが焚《た》かれる中、神妙な面持ちで頭を下げる笹本警視総監が早河には白々しく見えた。
稲本香澄への殺人未遂もケルベロスである原昌也の指示が働いていたが、警察は実行犯を挙げられずにいる。
原昌也は取り調べに黙秘を貫いたまま、留置場で勾留中だ。原の使用していた2台の携帯電話と原の自宅のパソコンは初期化がかけられ、データの復元不可の状態になっていた。
原の逮捕を察知したカオス側が組織に繋がる痕跡を抹消する目的で内部データを破壊した。
いつものカオスのやり口だ。
黙秘を通す原がひとつだけ語ったことがある。それはカオスの理念。
早河が過去に逮捕した前科者達の殺害も稲本香澄の殺害計画も、原にとっては犯罪劇の演出の一部に過ぎない。
舞台設定を整え、最高のキャスティングを揃える。演出家と主演は殺人者。
素晴らしいストーリーには栄誉と拍手を。
駄作なストーリーには死の制裁を。
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警視庁の留置場で原昌也の死体が発見されたのは11月14日土曜日の午前7時だった。
留置場で定められた起床時間になっても姿を現さない原を不審に思った看守が彼の留置室の鍵を開けて頑丈な鉄の扉を開くと、敷かれた布団の上で原が息絶えていた。
死因は服毒死。枕元にアルミに包まれた錠剤が数個転がっていた。
警視庁は原の死を自殺と判断したが、警察の管理下に置かれた留置場内で原がどのようにして毒物を入手したかは明らかになっていない。
15日の夜、退院した早河の自宅を上野警部が訪れた。
なぎさが早河の自宅のキッチンで夕食の準備をしている。上野はその光景を見て感慨深げに目を細めた。
『お前となぎさちゃんが収まるところに収まってくれて安心したよ。香道も天国で喜んでいるだろうな』
『そうあってくれるといいんですが……。恵さんはどうしていますか?』
原に操られていた桐原恵も、なぎさへの拉致監禁、早河への拳銃発砲と決して罪は軽くない。
『聴取にもきちんと応じている。彼女がお前への殺意が本当にあったとは思えない。やり場のない怒りを誰かにぶつけたかったんだろうな。それを煽ったのが原……ケルベロスだ』
原昌也が留置場で自殺したことは公にはされていない。
両親が他界している原は父親側の祖父母に引き取られ、奨学金で大学を卒業。その後に警察官となった。