蜜月と甘い嘘 〜忘れられた辣腕社長は記憶を無くした花嫁を離さない〜
◇◇◇
お風呂から上がると、彼が夕食の準備をしているところだった。
「バタバタしていて何も用意できなくてね。手抜きで申し訳ないけれど、退院祝いは今度改めて予定を立てよう」
恐縮がる彼が皿に盛り付けているのは、冷蔵庫に入っていたお惣菜の数々だった。とはいえテーブルを彩るのは小エビのカクテルサラダにローストビーフ、そしてラザニアといった凝った品だ。
「手抜きだなんて……。これ、星刻堂で買ったものですよね?ここのお惣菜って、たまのご褒美に買う程度だからこんなに用意して頂いて嬉しいです」
傍らに置かれた、空のパックに貼られたラベルの文字に目を走らせる。星刻堂は都市部を中心に展開する高級路線を謳うスーパーだ。二人分のこの量ならば、ちょっと良いレストランで外食したのと同じくらいの出費にはなるだろう。恐縮するのはこちらの方だ。
「さあ、準備ができたよ」
椅子を引かれて、美味しそうな料理が並んだ席につく。
銘々の皿に取り分けられた小エビはプリプリと食感が良く、ローストビーフは程よい厚みで肉のジューシーさを味わえる。メインのラザニアはチーズとソースの塩梅が絶妙でスプーンを持つ手が止まらない。そして先程冷蔵庫で見たデザートのプリンは噂通りの濃厚な味わいだ。
出来合いとは思えない繊細な味付けにあっという間に食事を終えた私達は、食後のコーヒーを飲む為にリビングへと移動した。
BGM代わりにつけたテレビからはニュース番組が流れている。
「はい、おまたせ」
芳醇な香りを含んだ湯気が漂うカップを手渡される。
「夜だからカフェインを取るのもどうかな?と思ったけど、やっぱりコーヒーが飲みたくなるよね」
「わかります。最後に口の中をスッキリさせたくなるというか」
カップに口を近づけて、香りを楽しんだ後にゆっくり一口啜る。
「……美味しい。あれ、でもこれ……」
「久美の会社……タカラジマ珈琲のブレンドだよ。わかった?」
私の勤務先、タカラジマ珈琲はその名の通りコーヒーの卸しとチェーン展開するカフェ部門の二つを主な業務としている会社だ。
「素人が入れたから雑味とか出ているかもしれないけど」
「そんな、上手にドリップ出来てますよ」
「プロにそう言って貰えるのは嬉しいね」
目を細めて、カップへ手を伸ばす様子を横目でちらりと盗み見をする。寛いでコーヒーを飲む姿もなんて様になるのだろう。まるで一枚の絵の様な完璧な構図に、いつまでも見惚れてしまいそうになる。
けれど私は彼の事をまだ何も知らない。
どこで知り合ったのか。何がきっかけで付き合うようになったのか。
そして、彼は一体何者なのか――。
お風呂から上がると、彼が夕食の準備をしているところだった。
「バタバタしていて何も用意できなくてね。手抜きで申し訳ないけれど、退院祝いは今度改めて予定を立てよう」
恐縮がる彼が皿に盛り付けているのは、冷蔵庫に入っていたお惣菜の数々だった。とはいえテーブルを彩るのは小エビのカクテルサラダにローストビーフ、そしてラザニアといった凝った品だ。
「手抜きだなんて……。これ、星刻堂で買ったものですよね?ここのお惣菜って、たまのご褒美に買う程度だからこんなに用意して頂いて嬉しいです」
傍らに置かれた、空のパックに貼られたラベルの文字に目を走らせる。星刻堂は都市部を中心に展開する高級路線を謳うスーパーだ。二人分のこの量ならば、ちょっと良いレストランで外食したのと同じくらいの出費にはなるだろう。恐縮するのはこちらの方だ。
「さあ、準備ができたよ」
椅子を引かれて、美味しそうな料理が並んだ席につく。
銘々の皿に取り分けられた小エビはプリプリと食感が良く、ローストビーフは程よい厚みで肉のジューシーさを味わえる。メインのラザニアはチーズとソースの塩梅が絶妙でスプーンを持つ手が止まらない。そして先程冷蔵庫で見たデザートのプリンは噂通りの濃厚な味わいだ。
出来合いとは思えない繊細な味付けにあっという間に食事を終えた私達は、食後のコーヒーを飲む為にリビングへと移動した。
BGM代わりにつけたテレビからはニュース番組が流れている。
「はい、おまたせ」
芳醇な香りを含んだ湯気が漂うカップを手渡される。
「夜だからカフェインを取るのもどうかな?と思ったけど、やっぱりコーヒーが飲みたくなるよね」
「わかります。最後に口の中をスッキリさせたくなるというか」
カップに口を近づけて、香りを楽しんだ後にゆっくり一口啜る。
「……美味しい。あれ、でもこれ……」
「久美の会社……タカラジマ珈琲のブレンドだよ。わかった?」
私の勤務先、タカラジマ珈琲はその名の通りコーヒーの卸しとチェーン展開するカフェ部門の二つを主な業務としている会社だ。
「素人が入れたから雑味とか出ているかもしれないけど」
「そんな、上手にドリップ出来てますよ」
「プロにそう言って貰えるのは嬉しいね」
目を細めて、カップへ手を伸ばす様子を横目でちらりと盗み見をする。寛いでコーヒーを飲む姿もなんて様になるのだろう。まるで一枚の絵の様な完璧な構図に、いつまでも見惚れてしまいそうになる。
けれど私は彼の事をまだ何も知らない。
どこで知り合ったのか。何がきっかけで付き合うようになったのか。
そして、彼は一体何者なのか――。