蜜月と甘い嘘 〜忘れられた辣腕社長は記憶を無くした花嫁を離さない〜
◇◇◇
数日ぶりとはいえ、ずっと室内で過ごしていた身としては、昼の日射しが妙に眩しい。
「外って、こんなに明るかったんですね」
道路脇の街路樹はキラキラ輝き、風がそよぐ度にその葉を揺らす。穏やかに流れる景色をぼんやり眺めていると、前方に歩道橋が見えてきた。
幹線道路であるこの通りには、こういった歩道橋がいくつも設置されている。私が階段から転がり落ちたという歩道橋も勤務先への通勤ルート上にある、そんな一つだった。
「なんで、足を滑らせちゃったんだろう」
赤信号で停車すると、車からは否応無く歩道橋が目に入ってしまう。すると同じ事を考えていたのか、私の声に運転席の彼はハッとしたようにハンドルを僅かに強く握りしめた。
「……通勤ラッシュだったから、足元が丁度見えなかったのかもしれないね」
「けど怪我をしたばかりか、記憶まで無くしちゃうなんて」
事故があったのは朝の八時過ぎ。一番人通りの多い時間帯だ。とはいえ通い慣れた道だった筈なのに。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
俯きながら包帯の巻かれた腕を撫でる。
「怪我は大きなものじゃなかったんだし、記憶だっていつかは思い出すかもしれないんだから。自分を責めちゃ駄目だよ」
「でも……」
「それにさ、記憶が戻らなかったとしたなら、もう一度色々やり直していけばいいだけなんだしね」
「色々って、例えば?」
「うーんそうだな。例えば……最初から、僕と恋愛してみるとか、かな」
「え……」
驚いて顔を上げると、情熱を湛えた美しい男性の顔が間近に迫っている。
「――――!!!」
結婚していたのだから、勿論お互い愛しいと思っていた筈なのだろう。けれど、改めてそんな事を言われてしまうとどうして良いのかわからなくなってしまう。
「えっと、あの……」
急に「異性」を意識させられて、多分私の顔は真っ赤になっているだろう。あたふたとしていると、彼はそっと目を伏せ前を向き直した。
「……まあ、それは追々として、ね」
再び穏やかに微笑む横顔の後ろで、景色がゆっくりと動き出す。
信号はいつの間にか青に変わっていた。
数日ぶりとはいえ、ずっと室内で過ごしていた身としては、昼の日射しが妙に眩しい。
「外って、こんなに明るかったんですね」
道路脇の街路樹はキラキラ輝き、風がそよぐ度にその葉を揺らす。穏やかに流れる景色をぼんやり眺めていると、前方に歩道橋が見えてきた。
幹線道路であるこの通りには、こういった歩道橋がいくつも設置されている。私が階段から転がり落ちたという歩道橋も勤務先への通勤ルート上にある、そんな一つだった。
「なんで、足を滑らせちゃったんだろう」
赤信号で停車すると、車からは否応無く歩道橋が目に入ってしまう。すると同じ事を考えていたのか、私の声に運転席の彼はハッとしたようにハンドルを僅かに強く握りしめた。
「……通勤ラッシュだったから、足元が丁度見えなかったのかもしれないね」
「けど怪我をしたばかりか、記憶まで無くしちゃうなんて」
事故があったのは朝の八時過ぎ。一番人通りの多い時間帯だ。とはいえ通い慣れた道だった筈なのに。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
俯きながら包帯の巻かれた腕を撫でる。
「怪我は大きなものじゃなかったんだし、記憶だっていつかは思い出すかもしれないんだから。自分を責めちゃ駄目だよ」
「でも……」
「それにさ、記憶が戻らなかったとしたなら、もう一度色々やり直していけばいいだけなんだしね」
「色々って、例えば?」
「うーんそうだな。例えば……最初から、僕と恋愛してみるとか、かな」
「え……」
驚いて顔を上げると、情熱を湛えた美しい男性の顔が間近に迫っている。
「――――!!!」
結婚していたのだから、勿論お互い愛しいと思っていた筈なのだろう。けれど、改めてそんな事を言われてしまうとどうして良いのかわからなくなってしまう。
「えっと、あの……」
急に「異性」を意識させられて、多分私の顔は真っ赤になっているだろう。あたふたとしていると、彼はそっと目を伏せ前を向き直した。
「……まあ、それは追々として、ね」
再び穏やかに微笑む横顔の後ろで、景色がゆっくりと動き出す。
信号はいつの間にか青に変わっていた。