蜜月と甘い嘘 〜忘れられた辣腕社長は記憶を無くした花嫁を離さない〜
◇◇◇
「さあ、ついたよ」
到着したのは郊外の高級住宅地が建ち並んだ、坂を上った先の新築と思しき美しいマンションだった。地下の駐車場に車を停めてエレベーターに乗り込むと、彼は慣れた手付きで最上階のボタンを押した。
「あ、あの……ここが自宅、なんですか?」
「え?うん。そうだよ?」
立地といいこの建物といい、どう考えても普通のお給料では住むことはできない場所だろう。
……彼は一体何者なのだろう。
私は「夫」について本当に何も知らないのだと改めて思い知らされる。
「もしかして、笹原さんて、お金持ちだったりするんですか?」
「さあ?どうだと思う?」
まさかね……と思いながら質問してみると、面白そうに首を傾げる彼に上手く誤魔化されてしまう。
「まあ、詳しくは部屋に入ってからね」
エスコートされながら部屋に入ると、白を基調とした広い玄関ホールが目に飛び込んできた。
「う、わ……広っ……」
ぐるりと一周視線を巡らせると、玄関横の棚に置かれた小さなガラスの置物が視界の端に入る。
「あ、可愛い……」
細かいカットが施された透明なクマの形の置物は、天井からのライトに照らされてキラキラと輝いている。
うっとり眺めていると「ああ、これね」と、彼が楽しそうに口を開いた。
「新婚旅行で行ったフランスの蚤の市で、久美が気に入ったからって買って帰ってきたんだよ」
「え、そうなんですか?」
「どうしても欲しいって、店の人と翻訳アプリ片手に何分もめちゃくちゃな値切交渉してね。あの時の必死になってる久美の顔といったら……」
クツクツと思い出し笑いをされると、記憶は無いというのに妙に恥ずかしくなってくる。
「も、もうっ!笑わないでくださいよっ」
「ごめんごめん。でも、久美の意外な一面が見られて嬉しかったんだよ」
手を振り上げて抗議をすると、目を細めて彼が微笑む。
「これ……後で調べたら名のある作家の作品だったらしいんだけどね。一目惚れしたって言って、その場からずっと離れようとしなかったんだよ」
愛おしそうにガラスの置物を見つめる様子に、チリリとなぜか胸に痛みのような感覚が走る。彼は「私との思い出」を語っているだけなのに、この感情は何なのだろう。
自分自身に嫉妬している……?まさかね。
「クマさんの隣にもう一つ、お友達がいてもよかったですね」
「ああ……そうかもしれないね。それはそうと、そろそろ中に入ろうか?」
促されて奥のドアを開けると、そこは30畳はあろうかと思われる広いリビングだった。壁掛けの大きなテレビと毛足の長いフカフカな白いラグ。そして座り心地の良さそうなソファと、どれも雑誌のインテリア特集で見たような高級そうなものばかり。
「わ……。凄い」
辺りを見回し思わずため息をついていると、くいと優しく手を引かれた。
「さあ、ついたよ」
到着したのは郊外の高級住宅地が建ち並んだ、坂を上った先の新築と思しき美しいマンションだった。地下の駐車場に車を停めてエレベーターに乗り込むと、彼は慣れた手付きで最上階のボタンを押した。
「あ、あの……ここが自宅、なんですか?」
「え?うん。そうだよ?」
立地といいこの建物といい、どう考えても普通のお給料では住むことはできない場所だろう。
……彼は一体何者なのだろう。
私は「夫」について本当に何も知らないのだと改めて思い知らされる。
「もしかして、笹原さんて、お金持ちだったりするんですか?」
「さあ?どうだと思う?」
まさかね……と思いながら質問してみると、面白そうに首を傾げる彼に上手く誤魔化されてしまう。
「まあ、詳しくは部屋に入ってからね」
エスコートされながら部屋に入ると、白を基調とした広い玄関ホールが目に飛び込んできた。
「う、わ……広っ……」
ぐるりと一周視線を巡らせると、玄関横の棚に置かれた小さなガラスの置物が視界の端に入る。
「あ、可愛い……」
細かいカットが施された透明なクマの形の置物は、天井からのライトに照らされてキラキラと輝いている。
うっとり眺めていると「ああ、これね」と、彼が楽しそうに口を開いた。
「新婚旅行で行ったフランスの蚤の市で、久美が気に入ったからって買って帰ってきたんだよ」
「え、そうなんですか?」
「どうしても欲しいって、店の人と翻訳アプリ片手に何分もめちゃくちゃな値切交渉してね。あの時の必死になってる久美の顔といったら……」
クツクツと思い出し笑いをされると、記憶は無いというのに妙に恥ずかしくなってくる。
「も、もうっ!笑わないでくださいよっ」
「ごめんごめん。でも、久美の意外な一面が見られて嬉しかったんだよ」
手を振り上げて抗議をすると、目を細めて彼が微笑む。
「これ……後で調べたら名のある作家の作品だったらしいんだけどね。一目惚れしたって言って、その場からずっと離れようとしなかったんだよ」
愛おしそうにガラスの置物を見つめる様子に、チリリとなぜか胸に痛みのような感覚が走る。彼は「私との思い出」を語っているだけなのに、この感情は何なのだろう。
自分自身に嫉妬している……?まさかね。
「クマさんの隣にもう一つ、お友達がいてもよかったですね」
「ああ……そうかもしれないね。それはそうと、そろそろ中に入ろうか?」
促されて奥のドアを開けると、そこは30畳はあろうかと思われる広いリビングだった。壁掛けの大きなテレビと毛足の長いフカフカな白いラグ。そして座り心地の良さそうなソファと、どれも雑誌のインテリア特集で見たような高級そうなものばかり。
「わ……。凄い」
辺りを見回し思わずため息をついていると、くいと優しく手を引かれた。