蜜月と甘い嘘 〜忘れられた辣腕社長は記憶を無くした花嫁を離さない〜
「……ごめん」

 どれくらいの時間が経ったのだろう。低い囁きと共に、腕が身体から離れていった。

「じゃあ改めて……部屋の案内の続きをするけど、いいかな?」
「あっ、はい……是非」

 曖昧に頷くと、気を取り直したように微笑む彼は再びそっと私の手を取った。
 リビングルームの奥に進むとその先はダイニングキッチンで、家具も家電類も清潔感のある白で統一されていた。最新型の対面式のシステムキッチンは作業台も広々としていて、料理作りを存分に楽しむことが出来そうだ。

「冷蔵庫の食材は適当に補充しておいたから、好きに食べてもらって構わないよ」
 
 冷蔵庫の中を覗かせてもらうと、高級そうな肉や魚をはじめ、すぐに食べられそうなお惣菜からデザートまで、様々な食料品が綺麗に陳列されている。

「あ、これ……。美味しそう」
 
 中でも手前に置いてあったカラメルがたっぷりかかったプリンが目について、ふとそんな声を漏らすと彼は嬉しそうに破顔した。 

「そう言ってもらえて良かった。後で一緒に食べようか」

 確かこの商品は高級スーパーのプライベートブランドで、人気で品薄だと言われているものだ。

「入手困難って評判ですけど、よく手に入りましたね」
「え?ああ……まあ、ちょっとしたツテがあってね」

 思わせぶりにウインクをすると、彼は「さて、それでは次に行こうか?」とドアノブに手をかけた。
 
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