早河シリーズ完結編【魔術師】
夢うつつの真愛の瞼の裏側に真っ白な世界が見えた。
今日は雪が降っていた。カーテンの隙間から見える景色の色は冷たい白色。
夢でも真愛は雪景色の中にいた。無表情な雪だるまがポツンとひとりで佇んでいる。
雪で思い出すのは真愛が保育園の頃、クリスマスの少し前に父と母と飛行機に乗って旅行に出掛けた。生まれて初めて乗る飛行機が降り立った場所は、とても寒いところだった。
ここはどこ? と父親に聞くと父は「ほっかいどう」と言った。“ほっかいどう”がどこにあるのか、真愛は知らない。
小学校に入って生活の授業の時間に日本地図を見た。ここが“ほっかいどう”だと先生に教えてもらった時、真愛は飛行機で行ったことがあると得意げに語った。
“ほっかいどう”には母の友達がいる。友達は“おはか”で眠っているのだ。
真愛も“おはか”にいる友達に会いたいと言っても、真愛の母親はまだその人に会わせてくれなかった。会うのは真愛がもう少し大きくなってからねと、母は優しく笑っていた。
「パパ……ママ……」
呟いた声は涙で濡れた。ここに閉じ込められてどれくらい経ったかわからない。
時計もテレビもない。日が暮れた部屋に灯るのは間接照明のライトのみ。
子どもの真愛と斗真にとっては長い長い永遠の孤独だった。
部屋の扉が軋む。音を立てて開いた扉から誰かが部屋に入ってきた。
花の匂いに似た良い匂いがした。何の匂いだろう?
『寒くはない?』
ここに来て初めて聞く男の声だ。カーペットに寝そべる真愛は顔を後ろにそらす。
知らない男が身を屈めていた。間接照明のライトが逆光となって顔はよく見えない。
「……だぁれ?」
『君のお父さんの友達だよ』
男は真愛の髪に触れた。不思議と触れられても嫌ではない。知らない人なのに、どうしてだろうと思った真愛は気が付いた。
この男は真愛の父親と同じような雰囲気を持っていた。
「パパのお友達?」
『そう。友達。……寒くない?』
真愛の身体にかかる毛布を男は彼女の肩まで引き上げた。真愛は男を見上げる。
「寒くないよ。おじさんは真愛と斗真くんを助けに来たの?」
『ごめんね。それは少し違うかな』
手つきだけでなく声も優しい。その優しい声で紡がれる言葉には嘘が混ざっていた。
今日は雪が降っていた。カーテンの隙間から見える景色の色は冷たい白色。
夢でも真愛は雪景色の中にいた。無表情な雪だるまがポツンとひとりで佇んでいる。
雪で思い出すのは真愛が保育園の頃、クリスマスの少し前に父と母と飛行機に乗って旅行に出掛けた。生まれて初めて乗る飛行機が降り立った場所は、とても寒いところだった。
ここはどこ? と父親に聞くと父は「ほっかいどう」と言った。“ほっかいどう”がどこにあるのか、真愛は知らない。
小学校に入って生活の授業の時間に日本地図を見た。ここが“ほっかいどう”だと先生に教えてもらった時、真愛は飛行機で行ったことがあると得意げに語った。
“ほっかいどう”には母の友達がいる。友達は“おはか”で眠っているのだ。
真愛も“おはか”にいる友達に会いたいと言っても、真愛の母親はまだその人に会わせてくれなかった。会うのは真愛がもう少し大きくなってからねと、母は優しく笑っていた。
「パパ……ママ……」
呟いた声は涙で濡れた。ここに閉じ込められてどれくらい経ったかわからない。
時計もテレビもない。日が暮れた部屋に灯るのは間接照明のライトのみ。
子どもの真愛と斗真にとっては長い長い永遠の孤独だった。
部屋の扉が軋む。音を立てて開いた扉から誰かが部屋に入ってきた。
花の匂いに似た良い匂いがした。何の匂いだろう?
『寒くはない?』
ここに来て初めて聞く男の声だ。カーペットに寝そべる真愛は顔を後ろにそらす。
知らない男が身を屈めていた。間接照明のライトが逆光となって顔はよく見えない。
「……だぁれ?」
『君のお父さんの友達だよ』
男は真愛の髪に触れた。不思議と触れられても嫌ではない。知らない人なのに、どうしてだろうと思った真愛は気が付いた。
この男は真愛の父親と同じような雰囲気を持っていた。
「パパのお友達?」
『そう。友達。……寒くない?』
真愛の身体にかかる毛布を男は彼女の肩まで引き上げた。真愛は男を見上げる。
「寒くないよ。おじさんは真愛と斗真くんを助けに来たの?」
『ごめんね。それは少し違うかな』
手つきだけでなく声も優しい。その優しい声で紡がれる言葉には嘘が混ざっていた。