早河シリーズ完結編【魔術師】
 真愛はこの男を“嘘つきな優しいおじさん”と名付けた。
嘘つきな優しいおじさんの言葉は、どれがホントでどれがウソ?

「おじさんがパパのお友達って嘘なの? パパのお友達なら真愛のこと助けてくれるもん」
『君は聡明だね。顔はお母さんに似ているが性格はお父さん似だ』
「そう……めん? 食べ物の? ねぇ、ママのことも知ってるの?」
『ははっ。聡明、頭が良いと言ったんだ。君のお母さんのことも知っているよ。お母さんのお友達は、おじさんの大切な人だったから』

嘘つきな優しいおじさんが初めて嘘が混ざっていない本当のことを言ってくれた。大切な人とは、“ほっかいどう”で眠っている人ではないのか。

『おトイレはいい?』
「うん。真愛も斗真くんもさっき行ったよ」
『そうか。じゃあゆっくりお休み』

 男は真愛の隣で寝息を立てている斗真の髪も撫でていた。斗真の寝顔を見つめる男の眼差しは優しい。

「おじさんは子どもいるの?」
『いないよ。おじさんはひとりぼっちなんだ』
「ひとりなの? 寂しくない?」
『寂しくないよ。でも……そうだね、君みたいな子どもがいてくれたらと思う時はある。おじさんの大切な人との間には、子どもがいなかったんだよ』

“嘘つきな優しいおじさん”はもしかしたらとても寂しがりなのかもしれない。

「おじさんの大切な人は“ほっかいどう”にいる人? “おはか”で眠ってるの」
『よく知ってるね。その人の名前を君は知ってる?』
「えーっと……ううん。知らない」

真愛の耳元に男の柔らかな声が響く。

『その人の名前はね、“莉央”と言うんだよ』

 もう一度、真愛の髪を撫でて男は部屋を去った。男の纏う残り香が真愛の周囲に漂っていた。
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