早河シリーズ完結編【魔術師】
 官能的な音を鳴らして繰り返される唇の接触。
美月と貴嶋の口内で苺は溶け合って交ざり合って、貴嶋は苺の味がする美月の唇を舌先で舐めとった。美月の唇は赤く紅く、艶やかに染まっている。

『私が言うのもなんだが、これは不貞行為ではなくスキンシップだ。だから美月は罪悪感を持たなくてもいいんだよ。私とこうしていても君は夫と佐藤のことを考えているだろう?』

この男はなんでもお見通しだ。貴嶋に隠し事は通用しない。

「変なの。キングでも夫婦仲の心配してくれるんだね。罪悪感持つなって言うのは無理だよ」
『君が悪者になるのが嫌なだけだよ。悪いのはすべて私だ。いくらでも私に責任をなすりつければいい。君が可愛くてキスを我慢できないのだからね。美月とのキスはとても心地良い』

 貴嶋は笑って今度は美月の手の甲にキスをした。

 ここまで恋人同然の行為をしていても貴嶋は美月に身体の繋がりを求めないのだから、まったく男と女はわからないものだ。
これが本物の恋人の莉央ならば貴嶋も性欲の片鱗を見せるのだろうか。

貴嶋のアプローチには、愛してもいない男から性欲をぶつけられるような気持ちの悪さは感じない。
貴嶋と美月を結ぶものは、性欲とは違う何か。
恋に似たもの。愛に似たもの。

『すべてのものはいつか滅びる。どんなに高く築き上げた城も、一瞬の揺らぎで崩れ去って消える。永遠などないのだよ。進化を極めればあとは衰退を待つだけだ』
「衰退だなんてキングらしくない……」
『綺麗な花もいつかは朽ちる。それだけだよ』

 彼らしくない弱々しい微笑みが美月の心をざわめかせる。彼女は貴嶋の首筋に両腕を回して彼にぎゅっと抱きついた。

部屋に犯罪者とふたりきり。
互いのぬくもりを分け合いながら、穏やかに時間だけが過ぎていく。

 少しずつ日没が近付き、空が暖色に着色されていく世界の下で波がさざめいていた。
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