早河シリーズ完結編【魔術師】
『……日浦。お前の仕事もここまでだ。これまでよく俺の下で働いてくれたな』
『ボス、それは……』
『お前の今後については夏木会長に頼んである。夏木グループ会長の運転手兼、第二秘書のポジションだ。あそこなら今よりも安定した収入が見込めるだろう』
夏木グループ会長の夏木十蔵《なつき じゅうぞう》は長者番付に名を連ねる資産家。夏木グループの資産額は2兆円は超えている。
夏木十蔵とは佐藤が犯罪組織カオス所属の時代から取引があり、カオス壊滅後も佐藤と夏木のビジネスパートナー関係は続いていた。
『自分は最後までボスについていきます。ボスに拾われたあの日から、何があろうともボスのために命を懸ける覚悟でやってきました。ここにきてそんな……』
佐藤は日浦の抗議の声も意に返さない様子で彼から銃の入るケースを奪い取った。
『俺のために命懸けられちゃ困るんだよ。お前が俺のために死んじまったら、嫁さんと子どもはどうなる? 息子はまだ三つだろ。お前の子どもを父親のいない子どもにしたくはない。これからは、嫁さんと子どものために生きろ』
父親のいない寂しさを知る佐藤だから言える。妻と息子の顔が脳裏に浮かんだ日浦は、抗議の言葉をぐっと堪えた。
『お前を死なせたくないんだ。わかってくれ』
『ボス……』
『夏木会長はお前の能力を高く評価している。悪いようにはしないはずだ。俺から離れることが最後の仕事だと思え』
佐藤は日浦に背を向けた。これ以上、日浦と話すことはない。辛気臭い別れの言葉も、上司らしく諭す言葉も佐藤は言わない。
『……ご無事を祈っています。どうか、ご自分の命を粗末になさらないように。仕える人間が変わっても俺の恩人はいつまでもボスです。それは変わりません』
日浦が一礼しても佐藤は振り返らない。防波堤の上に足音が響き、やがて車のエンジンの音が聞こえた。
またひとり、佐藤のもとから人が去る。これでいい。身軽になればなるほど動きやすい。
二本目の煙草から流れた白い煙がゆらゆらと冬の空気に舞って消えた。
『ボス、それは……』
『お前の今後については夏木会長に頼んである。夏木グループ会長の運転手兼、第二秘書のポジションだ。あそこなら今よりも安定した収入が見込めるだろう』
夏木グループ会長の夏木十蔵《なつき じゅうぞう》は長者番付に名を連ねる資産家。夏木グループの資産額は2兆円は超えている。
夏木十蔵とは佐藤が犯罪組織カオス所属の時代から取引があり、カオス壊滅後も佐藤と夏木のビジネスパートナー関係は続いていた。
『自分は最後までボスについていきます。ボスに拾われたあの日から、何があろうともボスのために命を懸ける覚悟でやってきました。ここにきてそんな……』
佐藤は日浦の抗議の声も意に返さない様子で彼から銃の入るケースを奪い取った。
『俺のために命懸けられちゃ困るんだよ。お前が俺のために死んじまったら、嫁さんと子どもはどうなる? 息子はまだ三つだろ。お前の子どもを父親のいない子どもにしたくはない。これからは、嫁さんと子どものために生きろ』
父親のいない寂しさを知る佐藤だから言える。妻と息子の顔が脳裏に浮かんだ日浦は、抗議の言葉をぐっと堪えた。
『お前を死なせたくないんだ。わかってくれ』
『ボス……』
『夏木会長はお前の能力を高く評価している。悪いようにはしないはずだ。俺から離れることが最後の仕事だと思え』
佐藤は日浦に背を向けた。これ以上、日浦と話すことはない。辛気臭い別れの言葉も、上司らしく諭す言葉も佐藤は言わない。
『……ご無事を祈っています。どうか、ご自分の命を粗末になさらないように。仕える人間が変わっても俺の恩人はいつまでもボスです。それは変わりません』
日浦が一礼しても佐藤は振り返らない。防波堤の上に足音が響き、やがて車のエンジンの音が聞こえた。
またひとり、佐藤のもとから人が去る。これでいい。身軽になればなるほど動きやすい。
二本目の煙草から流れた白い煙がゆらゆらと冬の空気に舞って消えた。